■搭載エンジンについて社内ではロータリーという意見も……
パワーユニットには社内で多くの意見が寄せられた。その代表がロータリーエンジン。だが、官能的でないし、燃費も悪いので退けた。所得の低い人でも存分に楽しめるように、エンジンは既存の1.6L 直列4気筒DOHCを使い、これに手を加えている。
FF用だったのをFR用に縦置きとしたB6-ZE型エンジンは、圧縮比を下げてレギュラーガソリンを使えるように手直しした。音色にこだわり、エキゾーストマニホールドはステンレス製とした。
デザインテーマは「ひびきときらめき」だ。古典芸能の能面をイメージしながらボディの面を練り込んでいった。最大の特徴であるリトラクタブルヘッドライトは、重量増加になるし、空気抵抗も増える。だが、これは当時のマツダのアイデンティティだったから開発陣は押し切った。
ドアハンドルの形状やエンブレムの書体なども、強くこだわってデザインしている。
ロードスターは年号が平成に変わった1989年5月にアメリカで発売を開始。9月には日本でも発売された。デビュー時はエンジン排気量が1597ccで、5速MTだけの設定だ。
驚いたのは、ベースモデルが170万円という求めやすい価格だったこと。頑張れば手の届く価格だったから年代を超えて興味を持ち、幅広い層の人がオーナーになった。
940kgの軽量ボディだから、走りは軽快だ。高回転のパンチ力は希薄だが、1.6Lエンジンはアクセル操作にリニアに反応する。ドライバーの感性に合っているから、非力でも気分よく楽しめた。
最大の美点は気持ちいいハンドリングである。クルマがヒラリヒラリと向きを変え、ステアリングからのインフォメーションも適切だから意のままの走りを楽しめた。
ロードスターは1990年2月に4速ATを加え、1993年夏には1839ccのBP-ZE型DOHCエンジンに換装した。関連会社のM2も魅力的なコンプリートカーを送り出したからバリエーションは大きく広がっている。
海外向けのMX-5ミアータはアメリカを中心に爆発的に売れ、のちのスポーツモデルの誕生に強い影響を与えた。
NA型ロードスターは8年間に43万台以上を生産し、ギネス記録を達成している。ロードスターの成功に刺激を受け、1990年代の半ばからオープンカーの文化が復活した。
また、登場から30年になる頃、マツダはファンとオーナーのためにNA型の復刻パーツの生産に踏み切っている。さらにレストア事業を開始したことも異例と言えるだろう。
■2代目も初代のよさを継承
1998年1月、ロードスターは初めてのモデルチェンジを実施してNB型にバトンを託した。2代目も「人馬一体」の基本コンセプトを受け継ぎ、NA型の車格、ボディサイズ、価格を守り通している。
また、電子制御に代表されるハイテクを使うことも意識して避けた。そしてパフォーマンスを使い切れる楽しさを徹底的に追求したのである。
エクステリアは、初代NA型の流れをくむキュートなデザインだ。が、固定式ヘッドライトを採用し、ソフトトップの後部ウィンドウもガラス製にして後方視界と耐久性を向上させた。オープンにした時に風の巻き込みを抑えるエアロボードの採用も話題をまいた装備のひとつだ。
また、不満が出ていたトランク容量も増やしている。インテリアは安全装備の充実がハイライトだ。運転席と助手席にSRSエアバッグを標準装備し、ナビシステムを設置するスペースも確保した。先代のVリミテッドの後継となるVSにはオシャレなタンカラー内装を用意している。
パワーユニットは初代と同じようにフロントミドシップに搭載。改良型の1.6LのB6-ZE型直列4気筒DOHCには5速MTと4速ATを、1.8LのBP-ZE型DOHCは6速MTだけの設定だ。サスペンションは4輪ダブルウイッシュボーンを受け継ぎ、RSはビルシュタイン製のダンパーを標準装備した。
1999年1月、ロードスターの生誕10周年を記念して世界統一仕様の特別限定車を発売。国内向けは限定500台の販売だ。2000年夏にはBP-ZE型エンジンを改良するとともにボディ剛性を高め、持ち味である気持ちいい走りに磨きをかけている。
2003年10月にはマツダの子会社、マツダE&T社がクローズドボディに改造した「ロードスタークーペ」を受注生産の形で限定発売した。これに続き12月にはロードスターターボも限定発売する。2004年3月、ロードスターは累計生産70万台の偉業を達成し、再びギネス記録を塗り替えた。
初代ほど目立たなかったが、安定して売れた名車だ。
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