■スーパー耐久でカーボンニュートラル燃料を使用
話をトヨタ、スバル、マツダ3社のスーパー耐久参戦の話に戻します。
「レースの燃料」といわれると、一般ユーザーには関係のない遠い世界の話と思われるかもしれませんが、市販車に限りなく近い車両を使って行われるスーパー耐久レースの燃料にカーボンニュートラル燃料を使うところがポイントになります。
過酷なレースシーンでカーボンニュートラル燃料の実用性が認められれば、将来の市販化も現実味を帯びてくるし、EVだけじゃなく、内燃機関を使ったカーボンニュートラルも夢物語ではなくなります。
2022シーズンのスーパー耐久レースには、トヨタからは昨年から参戦している水素エンジンのカローラH2コンセプト、カーボンニュートラル燃料を使う1.4L直列3気筒ターボのGR86、それにガソリンのGR86の3種類のエンジンを使った車両が用意されています。
スバルはカーボンニュートラル燃料を仕様の2.4L水平対向4気筒エンジンを搭載したBRZで参戦します。
マツダは食物由来のバイオディーゼル燃料を使うデミオ(マツダ2)で1.5Lディーゼルターボで参戦するが、2022年後半には2.2Lのバイオディーゼルターボを導入すると発表されています。
ちなみにマツダのバイオディーゼルはバイオディーゼル燃料100%で、従来からある混合用バイオ燃料とは異なります。
こうして実際にレースに参戦し、レーシングスピードで走れることが実証され、性能的にもどんどん改良されていった先に実用化の未来が見えてくるわけです。
クリーンな電気を使うといっても国内の電気供給を見れば、依然としてCO2を排出する火力発電はなくならないのだから、言葉の綾じゃないの、という指摘もあるかもしれません。けれども大切なのは、CO2を増やさないための取り組みです。
大気中の二酸化炭素の割合は現在0.04%です。1985年には0.03%だったので、40年にも満たない短い間に33%も増えているわけですからことは急を要します。
クルマでできることと言えばカーボンフリー(CO2排出ゼロ)が理想ですがLCA(ライフサイクルアセスメント)を考えると実現するためのハードルはかなり高いものです。その点カーボンニュートラル(CO2総量±ゼロ)は効果的な、そして実際的な手段に思えるのですが……。
■カーボンニュートラルのカギとなる脱炭素燃料
日本では経済産業省が“2050年カーボンニュートラル”に伴うグリーン成長戦略を策定しており、自動車は電動化を推し進め2035年までに新車販売で電動車(ハイブリッド含む)100%を目指すことになっています。けれども現実的にはインフラ整備を含め課題が山積しているのが実情です。
国際エネルギー機関(IEA)の見通しによると、2030年時点でハイブリッド車を含みエンジン搭載車は91%を占めており、2040年でも84%のエンジン搭載車が残っていると予測されています。
カーボンニュートラルを実現するためには、エンジン搭載車がそのまま、あるいは小改良で使える脱炭素燃料が重要になると考えられています。
さて、問題となるのは現在、化石燃料よりもコストが高いことです。
NEDO「CO2からの液体燃料製造技術に関する開発シーズ発掘のための調査(2020.8)に基づく資源エネルギー庁の試算によると、国内水素+国内合成燃料製造は700円/L、海外水素+国内製造は350円/L、海外水素+海外製造は300円/L。水素が1立方m当たり20円になると200円/Lになるとあります。
レース用カーボンニュートラル燃料で輸送貯蔵までカーボンニュートラルを求めると1800円/Lくらいになるのだそうです。自動車メーカーにできるのは、カーボンニュートラル燃料を使ったクルマを作るところまで。燃料代は政府の政策によって変わってきます。
それにしても水素1立方m=20円でも燃料代は200円で、高騰している今のガソリンの値段よりさらに高いのですから、これに税金を上乗せしたら、とても燃料として現実的ではありません。
カーボンニュートラル燃料の可能性は大きく広がって見える一方、クリアしなくてはならないコストの壁が大きく立ちはだかっているのです。
現状は開発段階初期ですから、今後レース参戦を通して、従来の内燃機関を使ったままカーボンニュートラルが可能であることを各方面にアピールできると、カーボンニュートラル燃料に注目が集まり、大幅なコストダウンが可能になるかもしれません。
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