昨2020年から急に自動車業界で「カーボンニュートラル」という言葉が飛び交うようになった。
欧州ではCAFE燃費(企業平均燃費=各車種の販売台数に応じた自動車メーカーの平均燃費)で基準に達しないメーカーは、莫大な制裁金が課せられる。VWが焦ってID.3を量産して自社登録までしたのは、制裁金を少しでも抑えるためだ。
テスラは工場建設などの先行投資もあって本業のEV販売では未だ赤字だが、VWのようにCAFE規制で基準に届かないメーカーに炭素クレジットを販売することで、莫大な利益を得ている。しかし、自動車メーカーも電動化を進めているため、そろそろこのビジネスモデルも成り立たなくなるかもしれない。
ところで、こうした電動化やカーボンニュートラルに関する情報について、巷には間違った情報も見受けられる。そこで、いろいろな情報のなかで怪しいものを取り上げ、その真偽を検証してみたい。
文/高根英幸 写真/TOYOTA、VolksWagen、編集部、Audi
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【Q1】カーボンニュートラル=ピュアEV化が必須?
イメージとして正しいように思っている人も多いようだが、これは間違った情報だ。カーボンニュートラルの意味をここで確認してみよう。
カーボンニュートラル=炭素が中立、というのは、その製品を利用するにあたって実質的に大気中のCO2が増えない、ということを意味する。
例えば木材を燃やして熱エネルギーを得た場合CO2は発生するが、そもそもそのCO2は木材になった木が成長過程で吸収したものなので、「実質的には大気中のCO2は増えていない」ことになる。これがカーボンニュートラルという考え方だ。
似たような言葉でカーボンフリーという言葉があるが、これは文字通り「CO2を出さない」というもので、その製品の製造過程や使用過程の表面部分だけで判断されることも多い。
製造に必要な電気を作る時点でCO2を排出しているなら、その電気を使って動いている製品はカーボンニュートラルとは言えない。
現在のところCAFE燃費は、これまでと同じ走行時の燃費(=CO2排出量)で判断することになっているから、EVはカーボンフリー(CO2を排出しない)ということになっている。
しかし厳密に言えば、走行時の電力はカーボンニュートラルではないし、製造時の工場の電力、さらに部品の原料を生産する際に費やされる電力を発電する際にCO2が排出していれば、実際にはそのクルマはカーボンニュートラルとは言えないのだ。
EVであってもカーボンニュートラルを達成するためには再生可能エネルギーによるグリーン電力で賄わなければ、実現は不可能だ。
電力をすべてグリーン電力にすれば問題は解決できる、EVの場合こうして課題がシンプルになるから、カーボンニュートラルへの近道のように思われてこうした情報が出てきてしまうのだろう。
【Q2】内燃機関ではカーボンニュートラルは達成できない?
これも一見すると正しいように思えるけれど、実際には間違っている情報だ。
材料の採掘から精製、成形して部品にするまでの間には、電力や輸送の燃料などあらゆる部分でエネルギーを消費する。プラスチックなら一般的には石油から作られるし、鉄やアルミなどの金属は精製時に電力をたくさん使っている。
EVに搭載されているリチウムイオンバッテリーは、リチウムの精製時やバッテリーを製造する際にたくさん電力を消費する。
さらに耐久消費財としての寿命を迎えたクルマはリサイクルされることになる。クルマは全体の95%がリサイクルされる、リサイクルでは優等生と言われるものだ。断熱材(これ自体がリサイクル素材が多いのだが)以外はほとんどの部品がリサイクルされているが、リサイクル時にもたくさんの電力を使う。
こうして素材の製造から廃車のリサイクル時まで含めた、トータルなCO2の排出による環境への影響を評価するのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)なのである。
こう考えれば、製造時や使用時、リサイクル時にCO2を排出する電力を使用していれば、EVもカーボンニュートラルとは言えないことになる。
一方、エンジン車でも製造時やリサイクル時は再生可能エネルギーによる電力を使い、燃料はバイオ燃料やeフューエルなど合成燃料を使えば、完全なカーボンニュートラルを実現できることになる。
日本の電力の半分が再生可能エネルギーによるグリーン電力になっても、クルマの生産やリサイクルがすべてグリーン電力で賄える訳ではないから、実際にはなかなか実現は難しいが、理論上はそういうことなのだ。
なんだか矛盾してしまうようだが、EVでカーボンニュートラルを達成できる社会が実現できる頃には、エンジン車もほぼカーボンニュートラルを実現できてしまうかもしれない。