■定番装備から減少へ その背景にあったもの
以上のような経過を経て、背面スペアタイヤは、SUVモデルの定番装備になった。特に1980年代から1990年代には、いろいろなSUVが背面スペアタイヤを採用した。
一番驚いたのは、1995年に、初代インプレッサにグラベルEXが追加されたことだ。
インプレッサスポーツワゴンをベースに、最低地上高を185mmまで拡大して、フロントガードバー風のプロテクターも装着した。
この後、SUVの定番装備になった背面スペアタイヤが廃止された背景には、複数の理由があった。最も大きな影響を与えたのは、2000年代に入ると、安全装備や走行安定性が重視され始めたことだ。
ボディ後端のオーバーハングされた高い位置に、重いスペアタイヤを搭載すると、カーブを曲がったり車線変更をしたりする時に慣性の悪影響を受けやすい。危険を避ける時も、後輪の接地性を下げてしまう。
2000年に2代目インプレッサが登場した時、開発者は走行安定性を追求するスバルのクルマ作りについて、自身満々にアピールした。
それが少々鼻についたから「先代インプレッサには、グラベルEXがありましたよね」と言うと、その開発者は急に大人しくなり、下を向いて「あのクルマのことは忘れてください……」と呟いた。申し訳ないことをしたと後悔した。
初代インプレッサグラベルEXは、スバルにとって忘れたい商品で、背面スペアタイヤもそれに準じるわけだ。
昔のジープのような悪路向けのSUVでは、走破力が重視されて舗装路上の安定性はあまり問われなかったが、今は事故防止の観点から、ランドクルーザーのような悪路向けでも高い水準が求められる。そこで背面スペアタイヤはほとんど採用されなくなった。
■走りや乗り心地を向上させる今日の技術進化とともに、背面スペアタイヤは絶滅へ
このほか背面スペアタイヤを装着すると、荷重に耐えるためにリアゲートを補強したり、車種によっては専用キャリアも必要になったりする。
これらはすべてボディ後端の重量を増やし、ミニバンやセダンと共通化できない独自のパーツだから、量産効果も乏しくコストアップを招く。背面スペアタイヤは欠点が多いのだ。
その一方、デコボコの激しい悪路に乗り入れるユーザーはかぎられ、タイヤが引き裂かれるようにパンクする危険も減った。
そのためにSUVでもスペアタイヤを積まず、パンク応急修理キットですませる車種が増えている。当然ながら背面スペアタイヤは不要になる。
以上のように背面スペアタイヤの栄枯盛衰は、SUVの使用環境の変化と重なる。SUVが悪路の走破力や荷物の積載性を重視した時代には、背面スペアタイヤも流行の装備とされた。
それが今のように、安全性と走行安定性が問われてパンク応急修理キットも普及すると、背面スペアタイヤの欠点も目立つようになった。
電気自動車のリチウムイオン電池も、今は前後輪の間の床下に搭載する。オーバーハングされた高い位置に重量物を装着する開発は、ほとんど行われない。
ミニバンの電動開閉式リアゲートは、ボディ後端の重量を増やすが、ミニバンのオーバーハングはホイールベース(前輪と後輪の間隔)のわりに短く抑えられている。
つまり、背面スペアタイヤは走りや乗り心地を向上させる今日の技術進化に沿わないから、必然的に採用車種も減ってきているわけだ。
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