クルマを操る楽しさを存分に味わえるMT(マニュアルトランスミッション)車は、AT(オートマチックトランスミッション)の進化や電動車の普及によってますます希少な存在となっている。クルマ好きにとってはMT車が設定されているだけでうれしいですが、できれば気持ちのいいシフトフィールのMT車に乗りたいものです。
ここでは、1970年代MT車の全盛期に免許を取った筆者が、いままでに乗ったMT車のなかで、操る楽しさが格別だったクルマを取り上げる。さらに、今のうちに乗っておきたいオススメのMT車もご紹介する。
文/片岡英明、写真/HONDA、NISSAN、MAZDA
【画像ギャラリー】今のうち乗っておきたい!! MTの気持ちよさが味わえるスポーツカーたち(16枚)画像ギャラリードライバーが主役になれるのがMT車の魅力
自動車の世界で「MT」と呼ばれているのがマニュアル・トランスミッションだ。エンジンなどの動力源の実力を効率よく引き出すために考案されたのがトランスミッションである。そのギアの段数を手動で切り替えるのがMTだ。
20世紀の末からは、面倒なクラッチ操作を不要にしたAT(オートマチック・トランスミッション)が主役となり、MTは脇役に甘んじるようになった。
MTを採用する自動車は、トランスミッションからタイヤに動力を伝えるときにクラッチの断続と接続をドライバー自身が行う必要がある。
左足でクラッチペダルを操作し、クラッチの切断が完了してからシフトレバーを操作してギアの段数を変えるのだ。が、上手にギアをつなぐためには慣れと技術を必要とした。うまくギアをつなぐことができないとエンジンがストール(いわゆるエンストだ)し、息の根を止めてしまう。
だが、コーナーの大きさや速度、勾配などに合わせて、最適なギアを選択でき、持てる実力を余すところなく引き出せるMT車は操る楽しさに満ち、ドライバーにとっても快適だ。
電動化が主流となり、ATの進化が著しい今、MT車は存在価値を失いつつある。が、クルマとの一体感が強く、運転して楽しいのはMT車である。機械任せではなく、自分の意思で最適なギアを選ぶなど、ドライバーが主役になれるのがMT車のいいところだ。
操る楽しさが格別だった名車とは?
MT車は20世紀の末を境に一気に減少している。今ではモータースポーツ車両までもがクラッチ操作なしに変速できるようになった。が、ボクが免許を取った1970年代はMT車の全盛期だ。
最初の愛車は、名車と言われた510型ブルーバード1600SSS(スリーエス)である。ポルシェシンクロと呼ばれるサーボシンクロを備えた4速MTを採用しているのが売りで、これに続く初代スカイライン2000GT-R(ハコスカ)やフェアレディZ432などの高性能モデルは5速のポルシェシンクロを採用していた。
ポルシェシンクロは、グニャッとシフトゲートに入る独特の変速フィールが特徴だ。バターにナイフを差し入れたような、とかハチミツをかき混ぜるときの軽い抵抗感などと表現される独特の感覚なのである。慣れないと、どのギアに入っているのか分からない。が、調子のいいポルシェシンクロは、操る楽しさが格別だ。
エンジンが温まった後、美味しい回転ゾーンを狙っての変速は楽しいし、気分が高揚する。ダブルクラッチがバッチリ決まったときの感動は、筆舌に尽くしがたい。
もう1台、愛車にした中で気に入っているのがホンダS800の4速MTだ。フルシンクロ化され、格段に扱いやすくなった。ショートストロークで、細身のシフトレバーを手首の返しだけで気持ちよく変速できる。4速タイプでも操る楽しさは格別だ。
ボクが育った時代は縦置きエンジンのFR車が全盛だったが、今は横置きエンジンのFF車が多いからリモコン感が強くなっている。しかも高出力エンジンに対処するためのアシスト感を強く感じる。ギアを操作するリニア感が乏しいMT車が多くなっているのは残念だ。
平成の時代に誕生した日本車で変速フィールが気に入っているのは、やはり縦置きエンジンにMTの組み合わせになる。変速レバーの下にトランスミッションがあるから、ワイヤーやリンクを介しての変則と違ってダイレクト感が強いのだ。
しかも持てるパフォーマンスを、瞬時に引き出しやすいのはNAと呼ばれる自然吸気エンジン搭載車である。また、クラッチペダルの踏力やストローク、変速ストローク、ギア比などもこだわりの部分である。バランス感覚が絶妙で、つい変速してしまうクルマが好きだ。
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