■「静」から「動」へ
東京の全日空ホテルでお披露目されたが、来場者を驚かせたのは「ZEROクラウン」のキャッチフレーズを掲げたことだ。それまで築いてきた伝統から解き放ち、「静」から「動」へと躍進する変革を掲げてゼロからの再スタートを断行した。
壇上に上がった当時の加藤光久エクゼクティブチーフエンジニアは、これまでのクラウンへの挑戦と言い切り、継承したのは精神のみ、と言い放っている。クラウンは国内専用モデルといえる存在だが、12代目は高級車の新しい基準を掲げ、世界に通用する走りを追求した。
劇的な変化を遂げたのは、プラットフォームとサスペンションだけではない。パワーユニットとトランスミッションも新設計だ。
ロイヤルシリーズと丸型リアコンビランプのアスリートシリーズを設定するのは先代11代目と同じだが、両方に新開発のV型6気筒DOHCを搭載している。ストイキ直噴を採用したD4エンジンは2.5Lの4GR-FSE型と3Lの3GR-FSE型があり、4GR-FSE型にはカギ型シフトの電子制御5速ATを、3GR-FSE型にはシーケンシャルシフト付きの6速ATを組み合わせた。
■クルマとしての本質を磨いた
また、2005年のマイナーチェンジを機に、アスリートにパワフルな3.5LのV6ユニットを追加している。クラウンとして初めて電動パワーステアリングを採用したのもゼロクラウンの特徴のひとつだ。
フラッグシップのロイヤルサルーンGはプリクラッシュセーフティを筆頭に、インテリジェントAFSやナイトビジョン、ディスチャージヘッドライトなど、当時の最先端を行く先進安全装備を満載した。
ナビシステムは、G-BOOK対応のDVDボイスナビとし、マークレビンソンの高級オーディオと組み合わせることもできる。もちろん、主力モデルはフロントがパワーシートだ。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアはマルチリンクとした。プラットフォームを一新し、高剛性ボディを採用したことと相まって軽やかなハンドリングと懐の深いコーナリングを見せた。
特にアスリート系はボディの大きさを感じさせない俊びんな身のこなしを披露した。それでいて乗り心地も上質だった。路面の凹凸を上手にいなしていた。荒れた路面でも優れた接地フィールを実現し、気持ちよく駆け抜けていく。
■市場に受け入れられた挑戦
ゼロクラウンの当初の月販目標台数は、ロイヤルとアスリートの2車種合わせて5000台だ。景気が低迷していたので、この目標を達成するのは困難だと思われた。
だが、大方の予想を覆してゼロクラウンは好調に販売を伸ばしていったのである。通期で月平均5000台ラインを超え、目標を達成した。ラージクラスのセダン市場は漸減傾向にあり、ライバルたちは軒並み販売台数を落としている。だが、クラウンだけは大躍進を遂げた。高級車クラスのシェアを先代の30%から50%以上に高め、ライバルを大きく突き放した。
ゼロクラウンの革新は成功し、ヤングエグゼクティブを含む新しいユーザー層の獲得にも成功した。低迷していた日本車のカンフル剤になり、高級セダンの新しい姿を見せてくれたのがゼロクラウンだ。
あの革新があったから、クラウンは挑戦を続けている。2012年にデビューした14代目は、時代の要請で4気筒モデルを復活させるとともにダウンサイジングを行った。そして大胆なイナズマグリルの採用も大きなニュースとなっていた。
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