日産サクラの低価格はどうして実現できたのか?
価値判断の変化を促した背景にあるのは、EVとしての充実した性能と、価格破壊といえる原価低減への努力であろう。
サクラは、三菱自動車工業のeKクロスEVとともに、日産、三菱自、そしてNMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)の共同企画および開発により、生産に至っている。そして、日産と三菱自は、十数年におよぶEV販売の実績を持つ。
2009年に、三菱自は軽EVのi-MiEVを発売した。日産は翌2010年に初代リーフを発売している。以来、両社は、さまざまな苦労をしながらEV販売を続け、日産はこの間にリーフを2代目へ進化させている。
三菱自は、i-MiEVの後継となる軽EVの開発を模索し続けていたという。しかし、i-MiEVの当初の価格は軽自動車でありながら459.9万円と高価で、販売に苦戦し、次期型への余力をなかなか持てずにいた。
そうしたなか、三菱自と日産が、2016年に提携関係を結ぶことになった。その前、2011年には、出資を両社で折半するNMKVを設立し、軽自動車の開発と生産で協力関係を結んだ。その成果は、2013年に日産デイズと三菱eKワゴンが発売となることにはじまる。こうしたなかで、次期軽EVの構想は温められていった。
「EVは売れない」と、懐疑的な自動車メーカーがあるなか、しかも軽EVは原価的に厳しいと見てきたメーカーもあるなかで、日産と三菱自は、十数年におよぶEVの知見を駆使して原価低減に取り組んだ。
サクラとeKクロスEVで使われている駆動用モーターは、アウトランダーPHEVや、ノートe-Powerの4輪駆動車で、後輪駆動用に使われているものを活用している。
車載バッテリーは、リーフの40kWhのちょうど半分の容量で、セルはそのまま同じものだ。リーフは世界60万台以上の累計販売台数を誇っており、初代と2代目でバッテリーの仕様は異なるが、それでも、ラミネート型という基本設計は同じで、それだけの数を生産し続けてきたいま、当初に比べ原価は下がっているだろう。
世界的にリチウムイオンバッテリーのギガファクトリーが建設されているが、リチウムイオンバッテリーの原価は大量生産によって下がるのである。
地道な軽EV開発の積み上げで他社には真似できない販売価格を実現!!
EVの要となる部品について、両社の過去十数年の取り組みがサクラとeKクロスEVの原価低減に活きている。2社による販売という点でも、数による原価低減を上積みできる。
そこを視野に、ガソリンエンジン車の日産デイズと三菱eKワゴン/eKクロスの開発がはじまったときから軽EVを視野にプラットフォームの開発が行われた。したがって、ガソリンエンジン車のデイズやeKワゴン/eKクロスのプラットフォームは、バッテリー車載可能な構造となっている。車体骨格部分をガソリンエンジン車と共通とすることにより、ここでも数による原価低減が果たせている。
そのうえで、岡山県にある三菱自の水島工場は、i-MiEV時代からガソリン車(アイ)と混流でEVを製造してきた実績があり、2020年に三菱自は水島工場へ約80億円の設備投資を行ったが、それは生産設備の改良程度で収まる金額であるという。新たにEVを生産するとしたら、さらに多くの投資が必要になるだろう。それは、原価低減に壁をもたらす。
そばから見た目には、苦戦するだけと見られてきた日産と三菱自のEVへの取り組みが、両社の提携や、NMKVの設立などを通じ、積み上げられた知見や生産設備の基盤として活かされ、日産サクラと三菱eKクロスEVの販売価格は実現した。
今日の技術をもってすれば、競合他社も軽EVを開発することはできるだろう。しかし、それをサクラやeKクロスEVと競争力のある価格で販売するのは、一朝一夕ではないはずだ。
いっぽう、サクラやeKクロスEVの性能は、そのまま海外へ展開しても商品力を持つであろうし、軽EVを活かした原価低減は、小型EVでもこの先威力を発揮する可能性がある。
世界の目は、大容量バッテリーを搭載し、一充電走行距離の長さを競うことに奪われているが、実は、庶民が日々使えるEVという性能と価格の調和は、軽EVを実現した日産と三菱自しか手に入れられていないといえる。そこに、日本のEVにおける優位性は残されている。
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