人によって見方や解釈は異なるが、日本には現在8つの自動車メーカーがある。しかし、1990年代、そうしたメーカーとは別に、ベースカーをチューニング・架装して発売する一風変わったワークス・コーチビルダーたちが現れた(隣で別の記事を執筆中の編集者が「いい時代だったよなぁ〜」としみじみしている)。
代表的なのは光岡自動車だが、光岡と並び異彩を放っていたのが、京都府に存在したメーカー「トミタ夢工場」のブランド「トミーカイラ」だ。
1995年に発表された「トミーカイラZZ」は、欧州のスーパースポーツ並みの性能、エンジン以外はすべて独自の設計というオリジナリティ、「こんなん大丈夫なの」と見ている人間がちょっと心配になるくらいのある種異様なエクステリアと、いろんな意味で頭一つ抜けていた。
ZZは残念ながら1999年に輸入車への衝突安全基準の法律が改正された影響で販売停止を余儀なくされたのだが(製造を英国で行なっていたため)、今回はそのトミーカイラZZをEVとして復活させた京大発のベンチャー企業GLM(グリーンロードモータース)についてとりあげてみたい。
※本稿は2018年8月のものです
文・写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年9月26日号
■「オール京都でEVを」から始まったGLM
これまで、この連載では海外の新興企業ばかりを取り上げてきたけれど、日本にだってすごい企業がないわけじゃない。今回紹介するGLM(グリーンロードモータース)は、まさにその筆頭格だ。
このベンチャー企業の誕生は、2006年の京都まで遡る。意外にも京都には、自動車部品を作る大小さまざまな企業が存在しているのだが、この年、京都大学の松重和美という教授が「こうした部品メーカーを糾合すれば、京都だけで立派なEVの基幹システムができる」と考えて「京都電気自動車プロジェクト」なる集まりを作った。
このプロジェクトにいたく興味をそそられた若者がいる。小間裕康氏。大学在学中に電機業界向けの人材関連ビジネスを立ち上げた起業家だが、電機業界の激動ぶりからEVの革新性に気づき、このプロジェクトに参画したのだ。
小間氏は自らの会社を後進に譲ると、松重先生のいる京都大学大学院に入学、2010年に、京都電気自動車プロジェクトを具体化する企業を起こした。これがGLMである。
■伝説のスポーツカーZZをEV化
創業するや、GLMはソニー元会長の出井伸之氏や江崎グリコ取締役の江崎正道氏など、名だたる人物から資金を獲得しEV開発に乗り出した。
ここで意外な縁が生まれる。募集したエンジニアのなかに、かつてトミーカイラで働いていた開発者がいたのだ。トミーカイラといえば、京都に存在した自動車ブランドだが、かつてZZという伝説的なスポーツカーを生産した実績を持つ。
このZZ、アルミ製のモノコックタブにFRPのカウルをかぶせただけのシンプルな2座スポーツだったが、社長の小間氏はこのZZを見た瞬間ひらめいた。
「シンプルなEVスポーツカーなら、過剰な装備をおごる必要がないし、EVのとんがった性能もアピールできる!」
小間氏はトミーカイラの創業者である富田義一氏に連絡を取ると、ZZのEV化について快諾を得た。
実際の開発にあたっては、ZZが現役だった当時とは車両の安全基準などが変わっていたため、モノコックから作り直す必要があったが、新型ZZはみごと完成し、2013年4月2日、京都・東山の青蓮院でヴェールを脱いだ。ちなみに今、富田義一氏はGLMの社外取締役を務めている。
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