■MT車の揺るぎない価値と今後の行方とは?
言わずもがなMT車はシフトチェンジに伴う操作が手動である。アクセルから足を離し、左足でクラッチを踏んで、ギヤを変え、またクラッチを繋ぎ、アクセルを踏み込む。MT車がそういうものと理解している人にとっては当たり前のことだが、そうでない人にとっては煩雑に感じることだろう。しかも、慣れていない人が運転するとエンストしたり、変速時にギクシャクしてしまうなど、運転がぎこちないものになってしまう。
自分の思いどおりに変速し、スムーズに加速できたときは爽快だし達成感を得られるが、「そこまで運転に対して向上心はない」という人が大半だろう。MT車をスマートに乗れるのは、運転の熟練度を示すには有効だが、現代ではそれよりも縦列駐車がスパッと決められるほうが尊敬される度合いは高いかもしれない。
しかし、MT車の難しさや煩わしさを軽減し、操る楽しさを提供してくれるMT車用の機能もある。トヨタのC-HRやカローラ系に採用されているiMTは発進時に運転者がクラッチペダルを踏むと、エンジンのトルクを厚くしてエンストしにくくし、また変速時には自動でエンジン回転数を合わせる「ブリッピング」を自動で行うので、ギクシャクした動きが抑制できる。
走行状況に応じて、適切なギヤを選択し、そのときに適正なエンジン回転を瞬時に判断してブリッピングできる熟練のMT乗りであれば、このiMTのようなものは無用の長物だが、AT車全盛の時代に、あえてMT車に乗り、MT車をそつなく操りたいという人をサポートし、MT車需要を少なからず増加させることに繋がる機能と言えるだろう。
今どきの自動変速機(AT、CVT、DCTなど)は、多段化されているうえに変速制御が緻密でレスポンスもよく、マニュアル操作も可能。運転スキルのレベルを問わず、クルマの性能を効率的に引き出せるので、スポーティドライブをイージーに楽しめる。しかも、ストップ&ゴーの頻度が多い日本の交通環境も、MT車にとってマイナスでしかない。
それでも、MT車にこだわる熱心なファンは存在する。面倒だろうが、煩雑だろうが、趣味性を重視した変わり者の選択と揶揄されようが、MT車こそがクルマにおけるスポーツの正しい在り方だという意見もある。
それも自己満足だが、コアなクルマ好きならば、電動化や自動運転などの最新技術を横目に見つつ、いずれやってくる「新車でMT車が手に入らない」時代が来るまでは、あえて内燃機関を搭載したMT車を選んでみてはいかがだろう。
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