優先順位あり? ホンダ四輪事業の実状と国や地域の政策を読み解く
ホンダがEV事業戦略で、北米と中国を重視するのは当然のことだといえるだろう。2021年度決算報告書をひも解くと、四輪事業での販売台数はグローバルで407万4000台。長引くコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、半導体不足、そして中国上海のロックダウンなど、多様な要因によって前期比で10.4%減となった。
地域別で販売台数を見ると、もっとも多いのがアジアで202万2000台。このうち152万5000台が中国だ。次いで北米が128万3000台で、日本は54万7000台となった。つまり、ホンダにとって日本市場は、中国の1/3、また北米の1/2程度なのだ。
さらに欧州は10万台しかなく、中国の1/15、北米の1/13、そして日本の1/5という、ホンダにとっては“小さな市場”にすぎないのが実状だ。こうした販売量から判断すれば、中国、アメリカ、次に日本という優先順位となるのは当然である。ここに重ねてくるのが、国や地域での電動車に対する政策だ。
こうした政策をグローバル与えるインパクトという観点で優先順位をつけると、最も重要なのが欧州だ。
欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が掲げる、欧州グリーディール政策がある。2035年までにEU域内で発売する新車は事実上、「EVまたはFCVのみ」との方針だ。これを受けるかたちで、英国ジャガーは2025年までに、スウェーデンのボルボは2030年までに、またドイツのメルセデス・ベンツは「市場環境が整えば、2029年までに」、グローバルで販売する新車100%をEVという、大胆なEVシフトを打ち出している。
また、欧州グリーンディール政策が、自動車産業における株式市場や企業買収に対して、ESG投資(従来の財務情報だけではなく、環境・社会性・ガバナンスを重視した投資)に大きな影響を与えている状況だ。具体的には、テスラやリビアンなどEV専用メーカーの株価を大きく押し上げた。
ホンダとしては現状で、欧州市場で販売台数は少ないものの、ESG投資の観点からはホンダ全体の事業方針としてEV強化を打ち出す必要性が高まったといえるだろう。
次に、中国では2010年代中盤から、NEV(新エネルギー車)政策を打ち出し、自動車メーカー各社に総販売台数におけるEV販売台数を一定割合以上に規定している。こうした、世界最大の自動車製造・販売国であある中国の政策を見据えて、ホンダのEV事業が着々と進む。
そして、アメリカでは2021年8月、バイデン大統領が電動化に関する大統領令を発令し、2030年までに新車(乗用車とSUVなどのライトトラック)の50%以上をEV、プラグインンハイブリッド、またはFCVとする方針を打ち出した。
また、2022年8月にアメリカの下院で「インフレ削減抑制」法案が可決された。ここにはEVに対する税額控除が加味されているが、EVに含まれる部品や部材の国や地域が限定的のため、現状で発売されている多くのEVが税額控除の対象外となる。
この法案に対応するためにも、ホンダとしてLGエナジーソリューションとの合弁事業を急ぐ必要があったと見られる。
そして日本市場だが、政府のグリーン成長戦略では2050年にカーボンニュートラルを目指すとしているが、EV販売台数を規定した義務化といった厳しい内容ではなく、あくまでも達成目標にすぎない。さらに、ホンダを含む日本自動車工業会としては、「カーボンニュートラルを達成する道筋はさまざまある」との立場で、欧州が政治主導で進む急激なEVシフトをけん制しているところだ。
●ホンダの挑戦は始まったばかり!! 気持ちのEVシフトは進むのか?
ホンダは2021年4月、三部敏宏社長の社長就任会見の中で、EVおよびFCVの販売比率を2030年に先進国トータルで40%、2035年に80%、そして2040年にグローバルで100%を目指すと宣言した。
これと連動して、ホンダ社内体制としては、本社と技術研究所の関係性のさらなる見直しや、F1撤退でF1技術要員のEV部門等への転属など、ホンダEVシフトを加速されている。
ホンダ社員の間でも「ホンダがいま、大きく変わろうとしている」という意識が高まっていることは確かだ。
いっぽうで、長年にわたる、四輪・二輪・汎用機における世界最大級のエンジンサプライヤーという立場でのホンダが「これからどうやって変わっていくべきなのか」と自問自答する人も少なくないようにも感じる。
ホンダの本格的なEVシフトは、いま始まったばかりだ。
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