■改良を伴わない値上げが少ない理由
それなのにデリカD:5とミラージュが単純な値上げを実施した理由は何か。三菱では「この2車種については今後、しばらくは改良や変更を実施する予定がないから」と説明した。
見方を変えると、これからマイナーチェンジや改良を予定している車種には値上げのチャンスも訪れる。敢えて価格だけを高める必要はない。
単純な値上げが珍しい背景には、ライバル同士の競争もある。特に今の国内市場では、軽自動車が新車販売されるクルマの40%近くを占める。次にコンパクトカーが多く、ミニバンとSUVが同程度で続く。
これらのうち、軽自動車とコンパクトカーは経済性が重視されるから、価格と燃費が売れゆきを大きく左右する。
販売店からは「軽自動車の場合、ライバル車の同程度のグレードと比べて価格が1万円高かったり、燃費数値が1.0km/L悪かったりすると、売れゆきに悪影響を与える」という話が聞かれる。コンパクトカーも同様だ。
ミニバンは、軽自動車やコンパクトカーに比べて価格が高いが、主なユーザーは就学年齢に達した子供を持つ世帯だ。出費にシビアだから、値上げも難しい。
SUVも売れゆきの多い車種は、コンパクトなヤリスクロスやカローラクロスだ。価格の安さも大切な特徴になる。以上のように売れ筋のカテゴリーは、すべて値上げが難しい。
■値上げがしやすいカテゴリーもある?
逆に競争の緩やかな販売規模の小さなカテゴリーは、値上げもしやすい。例えばスポーツカーの新型フェアレディZは値上げを実施した。先代型のバージョンSは484万8800円だったが、新型の同グレードは606万3200円だ。ターボを装着して安全装備を充実させたが、その変更で価格が122万円高くなった。
GT-Rも発売された時の2007年は777万円だったが、今は最も安価なピュアエディションが1082万8400円だ。発売時点に比べて300万円以上も値上げされ、比率に換算すると今の価格は1.4倍に達する。
ミニバンのような価格競争を伴う売れ筋カテゴリーでは、GT-Rのようにマイナーチェンジを繰り返して価格を1.4倍まで高めることは許されない。
輸入車も価格にこだわるユーザーが少ないと判断され、VW、メルセデスベンツ、プジョーやシトロエンなどは、値上げを頻繁に実施する。テスラも今年に入って3回値上げした。輸入車は、価格設定の方針が日本車とは大きく異なる。
それでもこれからは、日本車でも値上げされる車種が増え始める。前述の通り原材料費や原油価格の高騰に円安傾向まで加わり、今の価格では、いよいよ収支が成立しなくなるからだ。
■価格変更と納期のビミョーな関係
そこで問題になるのが納期の遅延だ。従来の納期は特殊な車種を除くと1カ月から2カ月に収まったが、今は6カ月から1年を要することも多い。そうなると値上げの発表も6カ月から1年前に実施せねばならない。契約した時の価格が200万円で、納車時に支払う金額が210万円というワケにはいかないからだ。
そこで210万円に値上げして販売したところ、納車される6カ月から1年後には経済状態が変わって値上げする必要がなかったことも考えられる。そうなると価格競争で不利になってしまう。
仮に値上げして、価格競争力で不利になり、短期間で再び値下げしたのでは値上げされた時に購入したユーザーから叱られる。
このように値上げをしなければ、メーカーや販売会社の得られる利益が減り、一度値上げをすると、価格を簡単に元には戻せずライバル車との競争力も弱まってしまう。どちらを選んでも、メーカーや販売会社の損失に繋がる可能性が高い。
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