夢のミッション!? 滅びゆくテクノロジー!? 2ペダルMT「DCT」が日本で普及しない理由

 日本では今やほとんどの車がオートマチックトランスミッション(AT)を採用している。かつてクラッチペダルを持つ3ペダルのマニュアルトランスミッション(MT)車が主流だった時代を思えば隔世の感がある。

 ただし、MT車にもメリットがないわけではない。システム構造から従来は伝達効率でも優れていると言われ、エンジンのパワーを自在に操れるという長所もある。

 そんなMTとAT、双方の“良いとこ取り”をした第3の変速機として2000年代以降、注目を集めたのがDCT=デュアルクラッチトランスミッションだ。

 MTをベースとしながらクラッチペダルを廃したことで操作の煩わしさは皆無。燃費などの実用面やMT譲りのダイレクトさも持ち合わせているとあって、“マニュアル派”の救世主として大いに期待された。

 ……が、日本ではフィットとその派生車種に採用されたぐらいで、こと大衆車に限っては普及が進んでいない。欧州では今後も伸びる可能性があるというDCT、日本ではなぜ普及しないのか? 

文:松田秀士
写真:編集部、MITSUBISHI


AT全盛時代に突如現われた救世主「DCT」

写真はスイフトスポーツの6MT車。今やMT車は一部のスポーツモデルのみに減少。その代替としてDCTに期待が集まったが、国産車には採用例が少ない

 筆者が免許証を手にした1970年代。ほとんどの車はMTだった。ATがないことはなかったが誰も相手にはしていなかった。

 MTに慣れたユーザーにとって最も嫌われたのが、信号待ちでブレーキペダルを離すと自動的に動き始めるあの“クリープ現象”。主導権は運転手にあるのに車が勝手に動き始める。

 しかしその後、年を追うごとに自動車の数が増え、都市部での渋滞が次第に酷くなってゆく。クラッチペダルが重い車では渋滞中に左足が攣りそうになることもしばしば。だんだんと人々はATを見直すようになり、自動車メーカーは運転の間口を広げるためにクラッチペダルレス車の開発に力を入れるようになった。

 その結果が今の日本における“ATあたりまえ時代”の交通事情だ。その後、日本市場では95%が2ペダルの車となった。

 ファンは、MTのダイレクト感、そして操る楽しさを忘れられない。でも、もうカタログにMT車のラインアップはなく、仕方なくATに乗っている。そんなドライバーに「DCT」という救世主が現れる。

 F1パイロットのようにパドルシフトを駆使して操る姿のナルシズム。MTをも駆逐するこの恍惚感はDCTでしか味わえない。しかも効率が良く燃費も良い。優秀なDCTは、ATもCVTも一気に駆逐して2ペダルの王様に君臨するのか、と思いきや、意外にも現在の日本ではイマイチ普及していないのだ。

日欧米各地域のDCT事情は?

日本ではハイブリッド車の電気式無段変速機やCVT、ATが主流でアメ車も主流はAT。一方、欧州ではVWやルノーがDCTを主力に展開。ボルボではV40に当初DCTを採用したが、改良で6ATを日本導入したのも興味深い

 では海外ではどうなのか?

 米国ではもともとAT比率が高く、その米国をお得意様とする日本メーカーがAT主導を国内でも施行した、という事実が現在のATニッポンを形成したともいえる。

 しかし、欧州ではMTが主流だった。日本のような慢性渋滞が少なく、信号が少なくラウンドアバウトが多い欧州ではダイレクト感が強く、ギアセレクトをドライバーの意思で行えるMTが好まれた。

 さらにいうとメカニズムがシンプルなのでコストも低い。このような交通事情のなか、MTのようなダイレクト感とシフトセレクトが自在なDCTが開発されると、欧州でもシェアを伸ばしてきた。
 DCTはMTを基に開発されているから製造面でも共通点が多く、今後欧州ではAT(日本で主流のトルコンATやCVT)よりもDCTが伸びる可能性が高い。

 DCTは奇数段のギアと偶数段のギアが分けて2軸上に配置され、一つのギヤで駆動している時に既に次のギアが噛み合わされていて、2軸にあるそれぞれのクラッチを切り替えることでシフトされる仕組み。そのためニュートラルの状態が発生しないので、瞬間的にギアシフトが行われるのだ。
 この特性によって、ハイパフォーマンススポーツカーやラグジュアリーカーに多く採用されている。またDCTはトラックやバスなどの大型車両にも多く採用されている。

日本でDCTがイマイチ普及しない理由

フィット ハイブリッドの「i-DCD」は、国産車として異例のDCTを採用。同機構をフィットベースのシャトルやグレイスなどにも採用したが、そのほかの大衆車ではなかなか普及が進んでいない

 DCTが日本では当初の予想に反してそれほど普及しない理由は、先述した交通事情が大きい。

 信号によるストップ&ゴーが多いことに加え、DCTは渋滞時のクラッチ操作によるクリープを作り出すことが苦手なのだ。

 特にコンパクトカーでは冷却効率の悪い乾式クラッチを採用することが多いため、断続時の繋がりがギクシャクするトラブルを起こしやすい。コストにそれほど縛りのないスポーツカーやラグジュアリーカーはほとんどが湿式クラッチを採用しているので、この点では比較的耐性が高いのだ。

 だから、日本ではGT-Rなどのスポーツ系高級車に普及しているのが現状。これまでにホンダがDCTにATのトルクコンバーターを採用してこの問題を解決しようと試みたが、部品点数が増えコストにも影響するので解決策とは言い難い。

 コンパクト系で現在もDCTを採用するフィット ハイブリッドも次期型ではDCTを廃止したモーター直結型のi-MMDに変更される予定なのだ。

ATの大幅進化もDCTが普及しない要因に

IS Fは5L V8エンジンに8速ATを組み合わせる。近年では、いわゆるトルコンATの進化も目覚ましく、従来ネガとされていた部分は大幅に改善されている

 このような事情の背景には、ATの進化があることも見逃せない。これまでのATはトルクコンバーターによりスムーズな発進と、渋滞時の走行でも熱ダレしないタフネスさが売りだったが、燃費が落ちてしまうこととスムーズさゆえのダイレクト感の欠如が問題だった。

 しかし、最近のATは走り出してしまえばロックアップを早期に行うことで燃費に優しくなり、これによって走行フィールもダイレクトなものに変身している。

 さらに、多段化が進んだことでエンジンの低回転域を積極的に使えるようになり、これにエンジンのトルク特性を合致させた開発が進み燃費を大幅に向上させている。

 ATの多段化は燃費だけでなく高回転域でのスポーティさも同時に向上させていて、マニュアル操作時のシフトアップダウンの速さがDCTと変わらないモノもある。

 実際、数年前にニュルブルクリンク24時間レースで筆者がステアリングを握ったレクサスIS Fは8速ATをそのまま使用。レギュレーションで7速までしか使うことはできなかったが、シフトのアップダウンの速さもしかりアクセルオン/オフに反応するダイレクト感でもMTやDCTと遜色がなかった。24時間をトラブルなく走り切りクラス4位で完走したのだ。

今後DCTは日本で普及しないのか?

フィットでDCTを採用したホンダでは、NSXにもハイブリッドシステムとの組み合わせで9速DCTを採用している。このほか、GT-RもDCTを採用する国産車だ

 このように日本でDCTが当初の予想ほど普及しないのにはATの進化があるのだ。特にFF小型車用ATのコンパクト&多段化が進んでいることも見逃せない。

 FFやこれに準ずるAWDはエンジンを横置きにしているので、トランスミッションも横置きとなりスペースに制限がある。ATのコンパクト化によって多段化が進めば、補器類の多いDCTよりもメリットが多いわけだ。

 トランスミッションでは他にCVTがあるが、こちらは軽自動車などのエンジントルクが低いモデルに向いている。スバルなど大トルクエンジンにも採用されている例があるが、こちらはCVTの技術革新を断行していると考えて良いだろう。

 このように、日本では今後DCTはスポーツ系やラグジュアリー系には普及するが、コンパクト系にはそれほど普及しないと見るべきだろう。

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