「タイプR」や「GTI」など、性能に特化したスポーツモデルはクルマの“華”。でも、そうしたトップスポーツグレードは、飛び抜けて価格が高いことも多く、性能も尖っていて普段使いにはややハードルが高いモデルも多いもの。その点、若干地味ながらベースグレードなら比較的手頃だし、街乗り含めて気軽に使える。
そして、そんなベースモデルの出来が良いからこそ、それを基本としたスポーツモデルが生まれる。「基本」が良くなくては優れたスポーツモデルは生み出せないのだ。
そこで今回はプラットフォームというモデルの垣根を越えた共用ではなく、あくまで同じモデルの中から進化したスポーツモデルにスポットを当て、優れたベースモデルはどれか? そして、そこから生まれたスポーツモデルは優れているのかについて解説したい。
文:松田秀士
写真:編集部
ベース車の出来がスポーツモデルの性能を左右する
スポーツモデルに重要なことはパッケージングだ。例えばF1マシンを想像してほしい。
F1マシンは、人が車の真ん中に乗る(市販のスポーツモデルでは不可)。1人しか乗れない(本格スポーツカーなら2人、スポールモデルは4人乗り)。サスペンションアームは真横に張り出し、タイヤが剥き出し(市販車では車検に通らない)。
と、いうように、走りに徹したパッケージングとなるとF1マシンのようなクルマになってしまう。少なくともエンジンは車体の中央に低くマウントする。ワンオフで作るスポーツカーならいいけれど、ベースモデルと共用の枠組みのスポーツモデルに、このようなパッケージは不可能です。
しかも、現在は「FF(=フロントエンジン・フロント駆動)」全盛の世の中。FFとは、そもそもエンジンを横方向に搭載することでエンジンルームを短くし、キャビン(室内)空間を大きくとることを目的に設計された車。
車の走りにとって重要なのは前後重量バランス、ということはご存じだと思う。BMWなどは前後荷重配分50:50に拘っていたりするくらいだ(最近はBMWもFF化が始まっているが)。
FF車の場合、エンジンが横置きなのでエンジンの隣に並列でトランスミッションが搭載される。この結果、後輪に比べて車の重量が前輪に集中してしまうのだ。しかも、FFはFR(=フロントエンジン・リア駆動)が後輪を駆動するのとは違い、前輪を駆動する。
発進時や雪道などでは前輪の駆動輪にエンジン類の荷重がかかるからメリットはあるものの、駆動輪と操舵輪が同じであることからコーナリングで前輪タイヤのグリップを使い果たしてしまう傾向にあり、ハンドリングでベストなものとは言い難い。
しかし、ベースモデルはだいたいの場合、室内スペースを重視するからFFであり、そこからスポーツモデル化することになる。つまり、ベースとなるFF車の性能が良くなければならないのだ。
「基本」が良い! スポーツモデルの優れたベース車 4選
■ホンダ シビック
代表的な例がホンダのシビック“タイプR”。ベースとなっているのはシビックハッチバックだ。シビック タイプRのフロントのサスペンションには、ハンドリングを良くするための「デュアルアクシス・ストラット・サスペンション」という技術が込められている。さらには高剛性なプラットフォーム、そしてエンジンや補器類をできるだけ車体の中心に近づける必要がある。
つまり、ベース車にスポーツモデルに必要な要素を予め盛り込んだ設計が必要になるわけだ。スペースユーティリティを優先したいベース車と、そんなことどうでも良くて、とにかく低重心や高剛性が必要なスポーツモデル。相反する個性を同時開発という方法でクリアしたのがシビックだ。
通常、スポーツモデルはベースモデルが発売されてから個別にチームを組んで開発されるものだったが、シビックタイプRではセダン、ハッチバックの開発当初からタイプRも込みの3車種同時開発を行ってきたのだ。
つまり、ハッチバック、セダンともにタイプRの持つ走りの良さを念頭に置いた開発ができた、というわけ。だから、タイプRにも有益なレイアウトや剛性などを初めから盛り込むことができている。イコール、「ベース車両の出来が良い」ということになる。
■VW ポロ
2018年にフルモデルチェンジしたフォルクスワーゲン・ポロ。一昨年にドイツではすでにデビューしていて、現地で試乗した。
このときに驚いたのは速度無制限エリアのアウトバーン、しかも夜間の雨という条件のなか160km/hレベルで巡行したこと。このときのモデルは「GTI」ではなく3気筒エンジンを搭載したどちらかというと廉価版モデル。このクラスとは思えないほどに高速直進安定性が高く、室内の静粛性も高いレベルだった。
新型ポロは格上のゴルフのプラットフォーム(MQB)を、そのままコンパクトモデル用に改良したプラットフォームを使用しているのだ。上級モデルのゴルフをベースとしているのと同じ、踏ゴルフの評価は非常に高くベースとしてはこの上ない。
そして、ポロにもGTIモデルがあり、その性能が高いことも、ゴルフと同じプラットフォームゆえなのだ。このような理由からポロのベースモデルとしての能力が高い。
■スズキ スイフト
スイフトもそのようなモデルの1台だ。スイフトはスイフトスポーツのヒットがあったから、ベースモデルも進化したと言ってよいだろう。しかもスイフトスポーツは海外で開発を行っている。
スイフトに関して筆者の考えは、スイフトスポーツからのフィードバックがあったからこそ、ベース車両としてのポテンシャルを上げてきたのではないだろうか。このモデルは、スイフトスポーツの進化を、ベース車両にキャリーオーバーしたように感じる。
■スバル インプレッサ
さて、ここまではFF車を例に出してきたが、最後は4WD車にしよう。スバル車は現在すべてエンジン縦置きなのでこれまでのFFよりも素性が優れている。
WRXのベースとなっているのはインプレッサ。現在、スバルのプラットフォームの基本形はフロント:ストラット式、リヤ:ダブルウィッシュボーン式というもので、サイズこそ違えど、上級車種のレガシィなどとも同じもの。
つまり、プラットフォームの供用がほぼ全車種に及ぶことから、この部分でコストダウンが図れ、スポーツモデル化するにあたって、改造のための予算がとれるというもの。
そこにはベース車両も使うスバル製プラットフォームの完成度が高いことが伺える。プラットフォームが同一であれば、サスペンションの取付位置も同じ。
つまり、初めからスポーツモデルを意識した設計があったことが伺える。
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