■「こだま」をどう動かすかがポイント
運転が再開された後もしばらくダイヤは乱れた状態が続くが、その状況を平常化していく過程は指令員の腕の見せ所のひとつだ。もちろんセオリーはあるが、センスが光るシーンであると島田指令長は話す。
「東海道新幹線の場合、全ての編成の両数、定員が同じなため、どの編成でも『のぞみ』、『ひかり』、『こだま』へ充当することができます。この特徴を生かし、遅れて終着駅に到着した列車がいた場合、本来その遅れた列車が充当される列車に別編成を配備して折り返し列車に充当することで、始発駅の出発時点で定時に戻すといった回復を行っています。また、ダイヤが乱れているときは各駅停車の『こだま』をどのように運転していくかが結構ポイントでして、特に熱海駅の前後は判断が難しい箇所です。熱海駅は東海道新幹線の中で唯一『通過待ち』ができない駅です。そのため、その前後の小田原駅、三島駅で何本の『のぞみ』、『ひかり』を先行させるか、どうやって『こだま』を小田原、三島駅まで逃げ切らせるかがカギになります。通過待ちを続ければ『のぞみ』『ひかり』のダイヤは維持できますが、『こだま』は遅延が増大するだけでなく、なによりご乗車されているお客さまに多大なご迷惑をおかけすることになりますので、ダイヤの回復とお客さまの利便性のバランスを熟慮した上で運転整理をしていきます。
冬は、岐阜羽島~米原間の降雪による徐行運転も時折発生します。雪は降りはじめが最も気をつかうタイミングで、雪質によっては雪が舞い上がりやすく、車体に付着しやすくなります。車体に付着した雪は走行中に落下し、線路に敷き詰めいているバラストと呼ばれる破石を跳ね上げて車体等を傷つけてしまう可能性があります、しかし、定時性を考慮すると徐行区間は極力ピンポイントにしたい。安全性を最優先しつつ、沿線に設置している降雪情報装置による雪質判定や、乗務員からの報告などをもとに、徐行区間や走行速度の判断を行っています」
こうした現場での調整と同調して、東海道新幹線の利用客にWebサイトやSNSで情報提供を行うのが、福田氏が指令長を務める「情報指令」だ。指令所の中で直接的に新幹線の運行に関わらない、少し特殊な指令セクションともいえる。
「JR東海の公式サイトやTwitterアカウントで配信する東海道新幹線の運行状況を伝える文面を考え、配信するのが情報指令の役割です。少しでも早く、リアルタイムかつ詳細正確に伝わる文面を心掛けています」
■どうすれば「次の行動判断」に役立てるか
そんな東海道新幹線の運行状況の案内には少し特徴がある。他社ではシンプルな案内が多い中、東海道新幹線の運行案内は「現在でも激しい雨が降り続いています」、「昨日からの大雨の影響により本日も徐行」、「累積雨量が高いため、今後少量の雨でも運転を見合わせる場合があります」といった、リアルな現状を想像できる「人間味ある文調」が特徴的だ。
特に今後の見通しだけでなく、ネガティブな可能性をも提示してくれると、早い時間帯の新幹線への変更を積極的に検討したり、乗車取りやめの早期判断にもつながる。しかし、福田氏は「なんでもかんでもそのまま配信すればよいかというと、そこの塩梅は難しいんです」と苦笑する。
「私たちはおそらくクローズドな指令所の中で、最もお客さまに近い場所にいる指令員ともいえます。そのため、異常時に開かれる指令間協議で決定された運行実施計画はいち早くお客さまに配信するのが一つの鉄則なのですが、どこまで先の情報までご提供するのがベストか、いつも悩んでいます。特に運転を取りやめる「可能性」をご提供した後で、予想より事態が悪化せず、通常運行ができた場合などにお客さまにデメリットになってしますので……。でも、なるべくわかりやすく、リアルタイムでの配信にはこだわっています。
ダイヤが乱れた場合など、駅はどうしても混乱しがちです。現場の乗務員や駅員も、お客さまのご案内や安全確保などに追われることも多く、一度に多くのお客さまへご対応するのが難しいという現実問題も発生します。そこで、我々が提供する情報によってお客さまご自身で『次の行動判断』につなげていただきやすく、また現状を想像していただきやすい情報提供と文面を常に考察しています。SNSではフォローいただくと異常発生時にプッシュ通知機能も搭載しているのでぜひご活用ください」
と福田指令長が話す。
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