秒単位で組まれた緻密なダイヤとそれを厳密に守って運行する日本の鉄道は、高い定時運行性が大きな特徴の一つ。それが当たり前の日常がゆえに一度ダイヤに乱れが生じると、しかたのないことと頭ではわかっていても、どうしてもストレスを感じてしまう。
車両や設備の故障のように鉄道会社が起因のトラブルもあるものの、どんなに事前に鉄道会社が対策していても、列車を止めざるを得ない事象が近年、時折発生している。その代表格が台風や大雨、大雪、地震といった自然災害だ。異常事態が発生した時、誰がどこでどのようにして、列車の運行の可否などを判断しているのだろう。そこで今回は東海道新幹線の中枢を担う「ある場所」へ取材を行った。
文、写真/村上悠太
■「先手先手を意識して計画を立てる」
そのある場所とは「新幹線総合指令所」。東海道新幹線をはじめ、相互直通運転を行う山陽新幹線、そして一部の駅、線路を共有している九州新幹線の全列車の運行状況を把握しており、その範囲は東京駅からはるか遠くの鹿児島県の鹿児島中央駅までにおよぶ。
ここには各列車の運行状況、沿線に設置した雨量計や風速計のモニターといった、新幹線の安全運行に係るあらゆる情報が集結する、まさに新幹線の頭脳とも言える場所。
所内には東海道・山陽・九州新幹線を運行する、JR東海・西日本・九州3社の指令員が昼夜24時間体制で連携をとりながら、新幹線の運行や夜間の保守作業などを統括している。設置場所も「都内某所」、社員でも限られた人しか入ることのできない、最高レベルのセキュリティで守られている。加えて有事に備えて大阪府内にも同様の機能を持った、「新幹線第2総合指令所」を備える。
今回はここで勤務している、JR東海 島田秀行輸送指令長と福田秀昭情報指令長に話を聞くことができた。
「まず地震など突発的な異常の場合は、なによりも列車を即座に停止させる手配を取ります。地震発生時は「東海道新幹線早期地震警報システム(愛称:テラス)」により、地震規模によって警報を発信、送電所からの送電を自動的に停止させて列車を緊急停止させます」
東海道新幹線の車両は停電状態を検知すると、自動的に「地震ブレーキ」という、非常ブレーキよりもさらに強力なブレーキがかかるようになっている。
「地震発生後、運転再開までには地震の強さによって必要な確認が異なってきます。震度6弱以上ですと、該当箇所全線で、地上巡回と構造物点検を実施します。実際に現場に車で向かい、徒歩等で巡回を行います。一方、震度4強(JR東海独自の震度階)では列車に添乗して車内から巡回を行います。目視の他、必要に応じて専用の機器を持って乗車し、線路に異常がないかを入念に確認します。規模にもよりますが、運転再開後は徐々に速度を向上して、安全を確認しながら平常の速度に戻していきます」
では事前にある程度の見通しが立つ、大雨や大雪、台風の時にはどのような対応が検討されるのだろう。
「悪天候時には天気予報等を踏まえながら先手、先手を意識して運行計画を立てていきます。運行を見合わせる際、最も避けなければならないのが駅と駅の間に列車を停めてしまうことで、こうした事態が発生しないように、運行計画を検討します。また、運転再開についても、天候が小康状態になったらすぐに再開できるのではなく、運転再開が可能な天候になってからでないと、線路の状況確認が安全上できないため、どうしても時間を要することがあります。ただ、予め特に気を配っておかなければならない箇所については、少しでも速やかに運転再開に結び付けるために、安全確認を行う必要が想定される場合は、予め係員を配備しておき、天候回復後、すぐに確認作業に当たれるようにしています」
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