トヨタ 新型プリウスはあんな尖ったのに悪化⁉︎ 「Cd値」の低かったクルマ5選

 話題沸騰中のトヨタ新型「プリウス」。先代を大きく超える燃費性能が話題となっているが、実は、空力性能を表す指標のひとつとしてしばしば用いられる「Cd値」は、悪化している。

 先代モデルよりもルーフトップの位置が後退したことによるものなのだが、なぜ新型プリウスは先代よりもCd値が悪化したにも関わらず、燃費は改善したのか。Cd値についてご紹介しつつ、これまでにCd値で話題となったクルマを5台ほどご紹介しよう。

文/吉川賢一、写真/トヨタ、日産、ホンダ、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン

【画像ギャラリー】クルマの歴史は空気抵抗との戦いの歴史!! 驚異のCd値を誇ったクルマたち(9枚)画像ギャラリー

■新型プリウスのCdは0.27、先代の0.24よりも0.03ポイント悪化していた

トヨタ新型プリウス。先代よりもAピラーを寝かせ、ルーフの頂を後方にずらしたためCd値はわずかに悪化している
トヨタ新型プリウス。先代よりもAピラーを寝かせ、ルーフの頂を後方にずらしたためCd値はわずかに悪化している

 「空力特性」とは、クルマが走行時、風から受ける力の大小を示す性能のこと。特に高速走行時においては、走行性能に大きな影響を与える。

 車両空力を設計するには、車両のX-Y-Z軸方向の分力と、軸回りのモーメントに分解した、空力6分力(抗力、揚力、横力、ヨーイングモーメント、ピッチングモーメント、ローリングモーメント)を考慮する必要があるが(揚力はさらに、前輪と後輪に分けた空力として検討する場合も)、主に燃費、加速性といった動力性能に関わるのは、「抗力(ドラッグ)」だ。

 抗力が小さければ、少ない前進力で走行できる(=燃費が良くなる)し、最高速も伸びる。

 この抗力は、D=0.5×空気密度×全面投影面積×Cd値×速度^2で定義しており、逆算すると、Cdは無次元係数となり、物体の大きさや風速などの測定条件に左右されない、純粋な空力性能の優劣を示す尺度として使うことができる。

 例えば、角柱に真横から空気をあてたCd値は1.0程度、円柱だと0.5程度、マグロのように前方が膨み後端を絞った流線型だと0.05程度といわれている。最後端部で空気剥離が起きにくい形状の方が、Cdは低くなる傾向にあるのだ。

 クルマの場合だと、0.30を下回ると「よい」とされており、一般的な乗用車のCd値は、0.3~0.4が多い。冒頭で紹介したプリウスは、初代の0.30から始まり、2代目0.26、3代目0.25、先代4代目が0.24、そして今回の新型である5代目が0.27。

 数字だけみると、新型プリウスのCd値は、2代目よりも悪化しているが、幅細タイヤ(205幅→195幅)と低全高(マイナス40mm)によって、抗力に関わる全面投影面積が小さくなったことで、抗力自体は低く抑えられている。以下で、Cd値に関して注目されたクルマたちをいくつかご紹介しよう。

■ミニバンでこの値は立派! トヨタ初代エスティマ(Cd値0.35)

1990年にデビューした初代エスティマ。通称「天才タマゴ」として、長らく愛される一台となった
1990年にデビューした初代エスティマ。通称「天才タマゴ」として、長らく愛される一台となった

 90年代のミニバンブームをつくり上げた、初代「エスティマ」。3列シートの流れるようなフォルムのエスティマのCd値は0.35。ワンボックスタイプのミニバンが主流だった時代においては、驚異的な数値だ。

 短くなだらかなフロントノーズをもつエスティマは、エンジンをフロア下に移動し、右に75度傾けてフロア下に搭載、アンダーフロアミッドシップとした。ちなみに2000年登場の2代目エスティマはCd値0.30まで改善、クラストップレベルを維持していた。

■当時世界一の燃費を達成!! ホンダ初代インサイト(Cd値0.25)

1999年に登場した初代インサイト。後輪をスカートで覆い、ファストバックデザインを採用したことで、Cd値は0.25した
1999年に登場した初代インサイト。後輪をスカートで覆い、ファストバックデザインを採用したことで、Cd値は0.25した

 トヨタの初代プリウス(1997年登場)に対抗するかのように1999年に登場した、ホンダ初代「インサイト」。後輪をスカートで覆い、車両後端で空気が滑らかに後ろへ流れるよう、ファストバックデザインを採用していた初代インサイトのCd値は0.25。ライバルの初代プリウス(0.30)を大きく抜いていた。

 NSXと同じアルミニウムフレームを採用、樹脂パネルも多用し、850kgの超軽量化を達成。エンジンは1.0リッター直列3気筒エンジンにモーターを組み合わせた「IMAシステム」を搭載し、35.0km/Lという当時世界一の燃費をたたき出した。

 2シーターのハッチバックという形状もあり、販売数はイマイチだったが、大いに話題となった一台であった。

■ダウンフォースと空気抵抗のトレードオフを両立! 日産R35型GT-R(Cd値0.26)

R35GT-Rの空力デザイン。リアエンドから剥離する空気をリアディフューザーやアンダースポイラーを使ってコントロールし、ダウンフォースとドラッグ低減の両立を狙った
R35GT-Rの空力デザイン。リアエンドから剥離する空気をリアディフューザーやアンダースポイラーを使ってコントロールし、ダウンフォースとドラッグ低減の両立を狙った

 2007年に登場した日産「R35型GT-R」。そのCd値はなんと0.26だ。一般的には、空気抵抗を減らそうとすればダウンフォースが犠牲になり、ダウンフォースを優先すれば空気抵抗は大きくなる。

 そのトレードオフの両立を狙ったGT-Rは、低いCd値を実現しながらも、強力なダウンフォースを発生させることに成功。300km/hでも安心して走るため、スポーツカーの世界でも、Cd値の低減は当たり前のものとなった。

■当時の世界最高レベル!! メルセデス・ベンツAクラスセダン(Cd値0.22)

2018年当時、量販車で世界最高レベルのCd値0.22というエアロダイナミクスを達成したAクラスセダン
2018年当時、量販車で世界最高レベルのCd値0.22というエアロダイナミクスを達成したAクラスセダン

 メルセデス・ベンツが2018年に発表したAクラスセダンは、登場当時、量販車で世界最高レベルのCd値0.22を達成していた。ちなみにAクラスハッチバックは0.25だ。

 CAEやシミュレーション、風洞実験をくりかえしながら細部の形状を詰め、グリルシャッターの導入や、フロアパン、リアアクスル部品、ディフューザーを含むアンダーボディのほとんどをフラットパネル化。ホイールリムとタイヤにもエアロダイナミクスの改良が施されているという。

 その後、2022年に販売開始された同社の大型BEV「EQS」が、Cd値0.20を記録して市販車の世界最高レベルは上書きされたが、メルセデスの持つ、エアロダイナミクス設計の技術力の高さは、他のメーカーを一歩以上、抜きんでている。

■究極の空力特性! フォルクスワーゲンXL1(Cd値0.189)

軽油1Lで100km走ることを目指すフォルクスワーゲンの「1Lコンセプト」から生まれたXL1
軽油1Lで100km走ることを目指すフォルクスワーゲンの「1Lコンセプト」から生まれたXL1

 2013年ごろ、フォルクスワーゲンが実施した「1Lカープロジェクト」(1Lの燃料で100kmを走る)で発表された、0.9Lのガソリンで100kmを走行可能とする「XL1」。そのCd値はわずか0.189だ。

 排気量800ccの2気筒ディーゼルエンジンとモーター、7速DSG、容量5.5kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッド車であるXL1は、カーボン繊維強化ポリマー(CFRP)製のボディによって、車重は795kg。

 空気抵抗低減のために車両後端が絞り込まれ、後輪もカバーで覆われたデザインだった。生産車としては史上最高の燃費100km/0.9Lを達成し、0-100km/hは 12.7秒、トップスピードは160km/h(電子リミッターが作動)だった。

*   *   *

 いかがだったろうか。さらなる燃費性能追求のため、年々改善されていくCd値。トップクラスの実力が着実に向上しているのと同時に、これまで注目されていなかったSUV系も底上げがなされている。

 昔はエアロダイナミクスデザインといえば、奇抜な造形が当たり前であったが、いまでは普通に見えるスタイリングなのにCd値が低いクルマが登場するようになった。今後は、カッコ良さと低Cd値を両立したデザインのクルマが、どんどん登場してくるだろう。

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