国内メーカーではスバル、海外はポルシェが採用するエンジン形式が水平対向タイプ。なぜこのふたつのメーカーは水平対向にこだわるのか? 水平対向にはどのようなメリット&デメリットがあり、そしてその将来はどうなるのか? ハイブリッド全盛で、EV化にシフトしつつあると言われるこの時代に、水平対向エンジンの魅力をあらためて考えてみたい。
文/長谷川 敦、写真/スバル、フォルクスワーゲン、ポルシェ、Newspress UK、Favcars.com
そもそも水平対向とはどんなエンジン?
クルマのエンジン(内燃機関)にはさまざまな形式がある。現在の主流はピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を得るレシプロ式だが、そのレシプロもピストンの並べ方でいくつかのタイプに分類される。
直立したピストンがそのまま並んでいるものは直列、ピストンがVの字を描くように配置されるのがV型、そして向かい合ったピストンが水平になっているのが水平対向だ。
実は水平対向エンジンと同じように見えるエンジンに180度V型エンジンがある。V型エンジンの向き合うピストンの角度をバンク角と言うが、この角度が180度になっているのが180度V型となる。では水平対向と180度V型は何が違うのか?
その答えはクランクピンの数。180度V型エンジンでは向かい合う2本のピストンがクランクピンを共用するのに対し、水平対向エンジンは各ピストンが独立したクランクピンを持つ。このため回転時のピストンは互いに近づいたり離れたりするという運動を繰り返す。これがボクシングの打ち合いにも似ているということから、水平対向エンジンは「ボクサー」とも呼ばれている。
余談だが、スーパーカーブーム世代には懐かしいフェラーリ 365GT4 BBのBBは「ベルリネッタボクサー」の略。しかし、実はこのモデルに搭載されていたエンジンは180度V型12気筒であって「ボクサー」ではなかったのはご愛嬌か?
スバルがこだわる水平対向のメリット
では水平対向エンジンにはどのようなメリットがあるのだろうか? スバルやポルシェがこの形式を採用し続けるにはワケがある。ここからは水平対向エンジンのメリットを見ていこう。
●振動が少ない
ピストンが往復運動を行うレシプロエンジンでは、どうしても回転中の振動という問題が起きてしまう。振動によってクルマの挙動が不安定になることに加え、エンジンの負担も大きくなる。もちろん、ドライバーが受ける不快感も増す。
だが、水平対向エンジンは向かいあって対称の動きをするピストンが互いの慣性力を打ち消しあうため振動が少なくなる。これは水平対向エンジン最大の利点とも言える。
●重心が低い
直列エンジンや通常のV型では、ピストンが地面に対してある程度の角度で立っているのに対し、水平対向エンジンは文字どおりピストンが地面に平行(水平)になっている。この構造から、エンジンの重心が低くなる。
重心が低いことがコーナリングの際に有利に働くのは、ベストカーウェブの読者ならおわかりだろう。低重心なクルマはコーナーを曲がる際の車体の傾き(ロール)も少なくなる傾向があり、これは乗り心地の改善にもつながる。
●エンジンの対称性
V型エンジンにも言えることだが、水平対向エンジンは、クランクシャフトを中心に考えた場合に左右対称の形状をしているという特徴がある。つまり、車体に搭載した場合、左右のタイヤに加わる荷重も均等になる。
これは直列エンジンには難しい相談で、スバルではこうした水平対向エンジンのメリットを生かしたシンメトリカルAWDシステムを導入している。
エンジンとパワートレーンを左右対称かつ一直線に配置することにより、4つのタイヤにバランス良く荷重が加わり、これが4WD(AWD)システムの効率を一気に引き上げることになる。
同時にトランスミッションを車体中央に近づけて搭載し、重量物の集中化により軽快なハンドリング特性を実現した。路面を選ばず快適な操縦性が得られるシンメトリカルAWDこそ、水平対向エンジンの真骨頂と言えるかもしれない。
コメント
コメントの使い方