かつて日本の自動車評論家たちが絶賛した「ドイツ車らしさ」とは結局なんだったのか?

かつて日本の自動車評論家たちが絶賛した「ドイツ車らしさ」とは結局なんだったのか?

 クルマの試乗レビューなどで、評論家たちによってしばしば用いられる「ドイツ車らしい」という表現。筆者もよくこの表現を用いるが、「ドイツ車らしさ」とはいっても、メルセデスらしさ、BMWらしさ、アウディらしさ、フォルクスワーゲンらしさ、ポルシェらしさなど、メーカーや車型ごとに運転感覚の「らしさ」は変わってくる。

 ただ、それらメーカー同士の個性を感じる以前に、ドイツ車には、日本車とは違う、共通の「らしさ」があると思う。「ドイツ車らしさ」とは何かについて考えながら、ドイツ車と日本車の現在地についても考えてみよう。

文:吉川賢一
写真:BMW、Volkswagen、Porsche、Mercedes-BENZ

ドアを開閉したときの重厚感は、真っ先に感じる「ドイツ車らしさ」

 「ドイツ車らしさ」については、基本的には、ドイツ御三家のBMW、メルセデスベンツ、アウディに、フォルクスワーゲンを足したジャーマン4のクルマについて使うことが多いと思う。直近だと、筆者はフォルクスワーゲンのT-Crossに試乗した際に、

 「(略) ドアを開けた瞬間、「バスッ」という音の質に「つくりのよさ」を感じた。近年は国産車も、このドアを開閉した際の音に重厚感が増してきてはいるが、T-Crossのそれは、やはりドイツ車らしさを感じさせるものだ。」

 と表現しており、ドアを開閉したときの重厚感(収斂の良さや硬質な音質)を、「ドイツ車らしさ」とした。物理言葉でいえば、音の高さは低めで収斂がよい音、といったところだろうか。

 もちろん、ドアの開閉音だけでクルマの良し悪しが決まるわけではないが、ドア開閉音は、命を預けるクルマを信頼するための入り口であり、重たい鉄の扉を閉じたときのような「ガンッ」といった硬質な音や、「ジャギッ」という鋭い音(ポルシェがそうだった)など、指を挟んだら指が全部吹っ飛びそうな音からは、「守られている」という安心感を得ることができる。これはドイツ車らしさのひとつだと筆者は考えている。

国産車にはないドア開閉音の重厚感が、ドイツ車の証
国産車にはないドア開閉音の重厚感が、ドイツ車の証

かつては走行性能の高さも「ドイツ車らしさ」だったが…

 とはいえ、ドイツ車の特徴は、やはり走行性能の高さだ。かつてドイツ車と日本車の走行性能には、特に高速走行安定性において大きな差があり、超高速で巡行走行するのが当たり前のドイツでは、クルマの最高速度はもとより、高速直進安定性、修正操舵の正確さ、横風や路面凹凸などの外乱安定性(速度を上げるほどに路面に張り付く感覚)など、「走り」に関わる体幹の鍛え方が、日本車とは次元が異なっていた。

 かつて仕事の一環で、VWゴルフを部品レベルまで分解して調査したことがあるが、ステアリングコラムのシャフトの径は太く剛性が高く、サスペンションの車体側取付点剛性も高く、高価な構造用接着剤でボディを組み立て、シートフレームには頑丈かつ表皮が滑りにくい素材を使用し、ダンパー内にウレタンブッシュを使用する(国産車はゴムブッシュが多い)など、見えないところにコストを重点的に投入していることに驚いた。デザインやメッキなど、「見栄え」に重点を置いていた日本車とは、思想そのものが違うことに直面させられた。

 某国産メーカーではかつて、国内でも扱っていたクルマと、その欧州向けの同じクルマで、ボディに使う鋼板の厚みを変えて車体剛性を無理やり上げていたことがある(いまでもあるかもしれない)。そうしないと、現地で求められる高速走行の安心感が満たせなかったのだ。

フォルクスワーゲンのゴルフは、世界中のメーカーがベンチマークにするCセグメントのハッチバックだ
フォルクスワーゲンのゴルフは、世界中のメーカーがベンチマークにするCセグメントのハッチバックだ

 ただ、走行性能については、近年、日本車とドイツ車の差はだいぶ埋まってきており、たとえばNXやRXといったレクサス車は、同価格帯のドイツ車のハンドリングや乗り心地に肉薄するレベルに至っている。またマツダ3の静粛性(特にディーゼル)やインプレッサのハンドリングなど、Cセグ王者のVWゴルフを(部分的には)追い越していると感じる。特に、かつては苦手だった高速直進性が、昨今の国産車は大幅改善しており、300万円クラスの国産車(特にグローバルモデル)であっても、運動性能そのものは、相当高いレベルになってきた。

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