BMW 2シリーズグランクーペ&ホンダ シビックe:HEV超辛口比較!!

■設計基準は要アップデート

最大転舵をすると、前輪のネガティブキャンバーがつくが、BMWのほうがより角度が大きいことがわかる
最大転舵をすると、前輪のネガティブキャンバーがつくが、BMWのほうがより角度が大きいことがわかる

 BMWのサスのジオメトリーはハイキャスターでトレールも大きめですね。ハンドルをフルに切るとネガティブキャンバーは増加しているし、タイヤの後ろ部分もフェンダー内に沈み込むので、オープニングの隙間も少なくできます。

 同じことをシビックでやると、BMWに対してネガティブキャンバーの変化は少なく、大きな軌跡で転舵するのためフェンダーオープニング隙間も大きく、タイヤの切れ角も小さい。シビックもハイキャスターなど、進化させたジオメトリーにしてはいますが、まだまだ古い設計基準が残っています。

 少し専門的な話で恐縮ですが、国産車メーカーの開発者が手本としている今までの便覧や基準書では、ハイキャスターや、トレール(前後のオフセット)とキングピンオフセット(左右のオフセット)の増加は、ハンドル操作力の変動や、直進時のハンドル取られ(ワンダリング)、タイヤの摩耗などの要因となることから「タブーな設計」と記されています。

 確かに1990年代以前のタイヤや小径ホイール、油圧式パワステではそうでした。しかし今は違います。

 操舵力などをきめ細かく制御できる電動パワステになり、タイヤもECO化や扁平率UPで特性が変わり、さらにホイールの大径化によりステアリングのリンク類配置も効率アップできるようになりました。

 さらには、空力性能を向上させるオープニング隙間の低減なども要求されています。 使う部品が進化すれば、そのシステムも変えていく必要があります。

 しかし、アメリカ方式で細かく分業化されている国産車の開発方式では、部品設計はいいですが、全体をシステムとしてまとめられる人材が手薄になっている感じがします。

 評価する際に、ホイール内側のサス部品の構成や、転舵した時のタイヤの軌跡、そして走行後のタイヤ温度などを見ると、思わず「もったいない」と思う箇所が多々あります。

 私の経験を少し話すと、R35GT-RやLUXGEN車の開発で新たなサスペンションジオメトリーを提案をしました。

 20代の若い設計者から「水野さんはサスペンションが何もわかっていない」と言われ、またベテランの管理職からは「そんな邪道な設計は過去に例がない」などの非難を受けました。これがメーカーの実情です。

 しかし、結果はご存知のとおりです。例えばR35GT-Rでは4WDとして異例のハイキャスターと、40mm近いキングピンオフセットを使っています。

■フロントの空力の差

本文中でも指摘しているように、タイヤやパワステの性能が高まった現代、サスジオメトリーも進化が必要だ
本文中でも指摘しているように、タイヤやパワステの性能が高まった現代、サスジオメトリーも進化が必要だ

 話を戻します。BMW2シリーズのグランクーペのフロントサスジオメトリーは、最新の電動パワステの性能や、幅広偏平タイヤの特性を活かして、昔であれば“タブー”と言われたジオメトリーを使い、進化した操安性の楽しさを創りだしています。

 一方シビックは、よく仕上げた足のセットアップでカバーをしていますが、以前からの基準書に従った設計の部分も多いサスジオメトリーなのです。

 エンジンルームを見ると、シビックのエンジンマウントは高い場所に配置していますね。この位置ではエンジンの回転反力が腰下で揺すられるように動きます、それを止めるトルクロッドの負担を上手くまとめる必要があります。BMWのエンジンマウントは一般的な位置です。

 空力的には……シビックはホイールオープニングが大きく、風の流れを乱してしまいます。Cd値は0.26~0.27程度と思われます。

 BMWはしっかりとホイールオープニングを詰めています。フロントバンパーコーナーに前面から受けた風を流して集め、タイヤハウス内から外に吐出しています。この風がホイール側面を流れ、タイヤハウス内の空気を吸い出すのです。シビックにはこのエアガイドはありません。BMWのCd値は0.25以下でしょう。

次ページは : ■リアの空力はどうだ!?

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