トラックドライバーの労働条件を改善するには、適切な運賃の収受が不可欠……。そんな考えのもと、国土交通省は令和2年(2020年)にトラック運送の「標準的な運賃」を告示した。この度、国交省は標準的な運賃の浸透・活用状況ついて調査を実施し、その結果が公表された。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真・表/フルロード編集部・国土交通省
「標準的な運賃」の実態調査
平成30年に「貨物自動車運送事業法」が改正された。これを受けて国土交通省は、運賃交渉力の弱いトラック事業者の適正な運賃収受を支援するため「標準的な運賃」を令和2年に告示した。
この制度は、行政が参考となる運賃を示すという異例の措置で、令和5年度いっぱい(=2024年3月末まで)の時限措置となる。
いっぽう、2024年4月からは、働き方改革関連法によりトラックドライバーの時間外労働時間の上限規制も始まる。従来通りの働き方ができなくなることによる諸問題を「物流の2024年問題」と総称し、政府が関係閣僚会議で緊急対策をまとめるよう指示するなど、運送・物流業界にとどまらない課題となっている。
働き方改革はもちろんドライバーの労働環境改善のためだが、当のドライバーは、むしろ給料の低下につながるのではないかと懸念しているのが実態だ。
従って、ドライバー不足を解消して2024年問題を回避し、経済活動と国民生活を支える安定した輸送力を確保するためには、ドライバーの給料と運送会社の経営の原資となる運賃アップが欠かせない。
こうした背景から、このほど、「標準的な運賃」が実際の運賃交渉に活用されているのか状況把握を行なうためにアンケート調査が実施され、その結果が公表されたという次第である。
調査期間は令和5年の2月7日から3月31日、公益財団法人全日本トラック協会(全ト協)の会員事業者と、ホワイト物流推進運動において把握した荷主企業に対するアンケート調査となる。WEBアンケートにより一般貨物自動車運送事業者から4401票、荷主から150票を回収した。
一定の成果も「道半ば」
調査では運賃交渉の実施について、荷主に「標準的な運賃を提示している」が21%、「標準的な運賃を考慮した自社運賃を提示している」が27%、(標準的な運賃とは関係なく)「具体的な値上げ額や値上げ率を提示している」が20%となった。
これらを合わせると69%となり、約7割の事業者が運賃交渉を実施していた。「新たな運賃は提示していない」は31%だった。
運賃交渉を行なったことで「希望額を収受できた」は30%、「一部収受できた」は33%となり、合わせて63%が運賃アップにつながった。いっぽう、「収受できなかった」は10%、「交渉自体に応じてもらえなかった」は5%、「交渉中」は8%、「その他」は14%だった。
これらをまとめると、運送事業者全体のうち、荷主から一定の理解を得られた事業者は43%となる。
なお、前年度の令和3年度(令和2年度の「標準的な運賃」告示から2年目に当たる)の調査(全ト協の会員事業者が対象)は、運賃交渉を実施した事業者が52%で、その内77%は運賃アップに繋がらなかった。従って荷主から一定の理解を得られた事業者は全体のわずか15%であった。
令和3年度と4年度を比較すると、荷主から一定の理解が得られた事業者は1年で約3倍(15%から43%)に急増した計算となる。このことから国土交通省は、標準的な運賃の告示により「一定の成果があった」とする。
とはいえ、「2024年問題」まで残り1年となり、エネルギー価格が高騰するなかでも事業者の半数は運賃アップを実現できていないわけで、成果としては道半ばという状況だ。