今でこそ当たり前に存在するBEVだが、個人向け量産BEVの歩んできた道は非常に険しいものだった。特に、先陣を切っていった三菱のアイミーブには、多くの苦労があったと思う。それでも2009年当時、アイミーブが立ったスタート地点は、現在の当たり前にあるBEVのいる位置に非常に近い。非常に考え方がハイレベルだった、アイミーブを振り返っていく。
文:佐々木 亘/画像:三菱自動車
【画像ギャラリー】i-MiEVは意外にスゴかった! ekクロスEVにも引き継がれた三菱のEV(10枚)画像ギャラリーBEVとは何かをアイミーブが全部教えてくれた
クルマはガソリンで走るもの。そんな常識を覆したのがアイミーブである。電気自動車の歴史を紐解いていくと、かなり古くからあることが分かるが、個人が手軽に買って乗れるBEVと考えると、アイミーブが第一人者的存在だ。
走行中の二酸化炭素排出ゼロ・自宅で充電・静かな室内・力強い走りの4つをアイミーブの柱とし、これをアイミーブならでは楽しさと表現した三菱。電気を取り出して家電を動かすといった、クルマの枠を超えた使い方の提案も見事であった。
当時、かなりの手探り状態だったことは、アイミーブのグレード展開を見てもよく分かる。2011年にグレードを2グレードに変更し、MとG(2013年からはMとX)という2グレード展開にして、駆動用バッテリーの総電圧と総電気量の違う2モデルを作り出した。
手探りの中でスタートした日本のBEV。問題提起もその回答も、BEVとは何か、何が必要なのかは、全部アイミーブが教えてくれたのだ。
アイミーブならMグレードの方がおススメです
BEVを選ぶ際に、長い充電走行距離を求めるユーザーが多いわけだが、ことさらアイミーブに限って言えば、充電走行距離をいたずらに長くしようとは考えていなかった。
アイミーブがピッタリな人は、クルマでの毎日のお買い物、セカンドカー、子供の送り迎え、地元のお客様をまわる渉外活動、近くの職場への車通勤をしている人。言うなれば、これらがアイミーブのお客様だ。平日一日の平均走行距離40㎞を走り切り、家で充電してまた使うというのがアイミーブ流。現在のBEVのように、外での急速充電が常になる使い方を想定してはいない。
そうなると充電走行距離は120㎞で十分だから、選びたいのは断然Mグレードになる。MとXではリチウムイオン電池の製造元も異なり、Mに搭載されていたリチウムイオン電池は東芝製。劣化が少なく、急速充電時の充電時間が早かったこの電池は低温時の能力低下も少なく、欠点はスペース効率が悪かったという程度だ。
今から中古車を探して購入するという人は、装備は少々ショボいが、バッテリー性能の優れたMグレードを積極的に探してみてほしい。
エアコン以外で空調するのがアイミーブ
回生ブレーキやヒートポンプエアコンの採用はもちろん、セレクターレバーにはDレンジよりも急発進・急加速を抑えられるECOレンジを作った。通常時はECO、力が必要な上り坂ではD、下り坂ではBという風に、セレクターレバーを効率よく動かすことが、アイミーブの良さを引き出す独特なドライビングテクニックなのだ。
また、廉価グレードでも上級グレードでも標準装備されているのが「シートヒーター」である。この装備の意味は「暖房を控える」ため。エアコンをあまり使わずに快適に過ごす工夫をすることが、航続可能距離を伸ばすことにつながるから、シートヒーターは究極の快適装備というわけ。もうBEVという高価格なものに乗って贅沢をしているのか、必死に節約をしているのか、アイミーブに乗っていると分からなくなってくる。それでも節電・節約の意識を自然に高めて嫌な思いもさせないのは、アイミーブの人柄の良さだ。
現在のBEVでは当たり前に行われている工夫だが、第一人者のアイミーブから当たり前に出来ていたというのはお見事。国産初の量産BEVの誕生は、製造からプロモーション、そして販売まで、日本のモノづくりのレベルの高さを改めて感じさせる完成度だった。
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