■不況でも販売台数が増える論理的矛盾
2023年度の業績をけん引する要因は販売台数の増加です。
世界経済は着実に不況の色を濃くするなかで、新車販売が回復するパラドックスこそが、コロナ禍による業界のゆがみを示しています。2023年度の7社合計小売台数は前年から13%増の高い伸びが計画されています。
2021年度は、デルタ変異株流行の影響で世界の生産台数が激減するなかで儲けのマージンが急上昇し、結果として業績が改善するパラドックスがありました。
在庫が枯渇し、需給バランスがタイト化したことでインセンティブ(販売奨励金=値引きの原資)が大幅に減少したことがその背景にあります。
2023年度は、景気後退や金利上昇で実需はゆるりと悪化方向に転じていると思われますが、供給が遅れた結果の受注残が各社数カ月分も積み上がっているわけで、生産力が改善すればそれが納車につながり、不景気でも新車販売台数が回復するわけです。
しかし、夏以降も実需が下降を続ければ、供給力を下回る可能性もあります。その時、在庫は急拡大に転じ、自動車の実売価格の急落(=インセンティブの増大)、生産調整という悪化循環が始まるリスクと隣り合わせと見ています。
景気次第では、好調な環境が急変するリスクがあることを忘れてはならないでしょう。
また、中国販売に構造的な悪化が見られ、トヨタで20%、ホンダで30%、日産で40%の全体最終利益への寄与があると言われる中国事業の先ゆきも注視が必要です。
■夏以降に環境急変のリスク 日本市場も値上げのトレンドが訪れる??
コストインフレと価格転嫁のバランスは、2023年度は好転が望めるでしょう。
2022年度はコストインフレの約40%程度しか値上げで回収ができませんでした。2023年度は資材費高騰が収まりエネルギーコストが中心になることで、コストインフレは6500億円まで縮小する公算です。
一方、新車価格の値上げは昨年並みの1兆1500億円が計画されています。昨年の積み残しの一部を挽回する考えです。
これまでは値上げのほとんどは北米、欧州、中近東という地域に集中していました。
2023年度は日本にも値上げが波及するだろうと考えています。国内新車価格は安定していましたが、今年から段階的に値上げのトレンドが訪れそうです。
決算説明会においては、各社のEV戦略のアップデートに大きな注目が集まりました。
トヨタの佐藤新CEOはEV戦略のさらなる詳細を発表し、まったく新しい開発、調達、生産方法で進める次世代EV事業を推進する専任組織は「BEVファクトリー」と名付けられ、そのプレジデントに加藤武郎氏が任命されました。
加藤氏は3月までBYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー有限会社(BTET)に在籍し、BYDと共同でEV開発を進めてきた人物です。
「加藤は外からトヨタを見て、トヨタのクルマづくりのいいところ、変えていかなければ厳しい競争に勝ち抜けないところ、という外からの視点を体感してきている」
佐藤CEOはこのように任命理由を話し、中国自動車メーカーに対する知見だけでなく、トヨタを外から見る貴重な経験をもって、トヨタの経営にモノが言え、それに対する具体的な行動を起こすことができる人物を選んだわけです。
新しい製造方法に挑戦し、新たなモノづくりの世界を築く考えです。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
コメント
コメントの使い方