日産もベンツもこぞって採用! テスラの急速充電規格はなんでそんなにモテるのか?

日産もベンツもこぞって採用! テスラの急速充電規格はなんでそんなにモテるのか?

 アメリカの急速充電環境でテスラが存在感を増している。フォード、GM、メルセデス、日産、ボルボなどが、こぞってテスラの充電規格を採用すると発表したのだ。なぜそれほどテスラの充電規格が支持されるのか。その理由を探ってみた。

文/桃田健史、写真/テスラ、NISSAN、MITSUBISHI、AdobeStock

■テスラによるデファクトスタンダード

最近のテスラの動きは自社の充電規格を「デファクトスタンダード」化する狙いがあるとみられる
最近のテスラの動きは自社の充電規格を「デファクトスタンダード」化する狙いがあるとみられる

 どうして、テスラが主導する動きになってきたのか? 北米のBEV充電規格について、そんな疑問を持つ人が日本にもいるだろう。

 また、「そのうち、日本でもチャデモがなくなって、テスラ方式で統一されてしまうのか?」と不安を抱く人もいるかもしれない。

 2023年に入り、アメリカ、欧州、そして日本の自動車メーカーが相次いで、北米でのBEV充電で実質的なテスラ方式であるNACS(ノース・アメリカン・チャージング・スタンダード)を採用した。

 これは、テスラが2022年11月11日にニュースリリースした「充電規格を公開」に関連した動きである。

 つまり、これまでテスラ専用としていたテスラ方式の充電規格について、その技術詳細などを公開することで、テスラ以外のメーカーでもNACSを使えるようになったのだ。

 なぜ、こうした動きが出てきたのか?

 結論から言えば、テスラがいわゆるデファクトスタンダードを狙った、ということだ。

 デファクトスタンダードとは、市場の原理による実質的な標準化を指す。学術的または技術的な背景ではなく、実際により多く普及しているモノが標準化に相当するという考え方である。

 それほどまでに、北米BEV市場ではテスラの存在感が増しているのだ。その反面、欧米日韓メーカーのBEV販売がテスラと比べると増加が緩やかというのが実状だ。

■最初に成立したのは日本のチャデモ

2009年に登場した「CHAdeMO(チャデモ)」規格(maradek@AdobeStock)
2009年に登場した「CHAdeMO(チャデモ)」規格(maradek@AdobeStock)

 ではここで、BEVの充電規格についておさらいをしておきたい。

 日本でのBEV充電規格は、CHAdeMO(チャデモ)とテスラ方式(アメリカでいうNACS)の2つがある。

 これら以外にも、グローバルでは様々なBEV充電規格が存在している。規格が生まれた順番で見ていく。

 最初に登場したのが、2009年に始まったチャデモだ。三菱「i-MiEV」と日産「リーフ」の発売開始に合わせたタイミングである。これら2台が大手自動車メーカーによる世界で初めての大量生産型BEVであったためだ。

 BEVの歴史は1900年代前半まで遡り、その後に何度か普及を目指した時期があった。だが、電池技術が未発達であり、それに伴う充電インフラについても標準化を目指す動きは実質的に起こらなかった。

 BEVは、小規模なベンチャー企業が手がけるクルマというイメージが長年続き、大手自動車メーカーにとってのBEVは、研究開発用モデルや、モーターショー向けのコンセプトモデルという枠を超えることがなかったと言えるだろう。

 それが、「i-MiEV」と「リーフ」の登場により、BEVの本格的な普及を目指して充電規格の議論に及んだ。

 議論は、東京電力などの電力会社、日系自動車メーカー、日系自動車部品メーカー、そして充電器事業への参入を模索した日系工業向け電機メーカーなどによって行われた。

 要するに、議論は日本主導で行われ、完成したチャデモ規格の充電規格を欧米の充電器メーカーが採用する形を取った。日本がBEV技術先進国を狙ったというわけだ。

 こうした日本主導の充電器標準化に対して、欧米メーカーが異論を唱えた。それが、CCS(コンバインド・チャージング・システム)だ。通称は、コンボ方式。

 2012年5月に米ロサンゼルスで開催された「第26回エレクトリック・ヴィークル・シンポジウム」で、当時の米ビッグ3(GM、フォード、クライスラー)と欧州ビッグ3(ダイムラー、BMW、VW)の関係者が壇上に並んで記者会見し、「CCSこそ世界標準になるべき規格」と言い切った。

 筆者はその現場にいたが、欧州メーカー関係者が露骨にチャデモ排除を強調したことに正直驚いた。

次ページは : ■テスラの向こうに見え隠れするアメリカの戦略

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