救急車の事故は10万件中13件…「それでも起こる」ので後席シートベルトを

患者や付き添いの人にはシートベルト着用を促すものの、救急隊員の着用率は高くない

 冒頭で触れたように、道路交通法においてはシートベルト着用義務の例外となっている緊急走行中の救急車ですが、各消防本部ではどのように取り決めているのか。調査に回答のあった553消防本部のうち、約半数となる258消防本部がシートベルト着用について取り決めがあると回答、そのうち、88%の228消防本部が後部処置室の患者さんや同乗者にシートベルト着用を促しているそう。ただ、救急隊員に関しては、「処置中以外はシートベルトを着用する」としたのは、258消防本部のうち、36%となる93消防本部でした。処置中の救急隊員もシートベルトを着用するとしたのは、わずか1.9%となる5カ所の消防本部だったそうです。

 ただ、救急車の事故に対しては、取り組みを行っている消防本部は多く、安全運転研修の実施や、ドライブレコーダーの分析などによって事故発生に関するデータ分析を行ったり、事故に繋がりやすい狭あい地(道幅が細くて険しい地域)の調査や運転適性診断の実施、ヒヤリハットの周知などを、実に多くの消防本部が行っていると回答したそう。

 また、運転支援装置が搭載されている救急車も徐々に増えているようで、車線逸脱警報装置や被害軽減ブレーキ、車間距離制御装置やペダル踏み間違い時加速抑制装置、全方位モニターやコーナーセンサーなどを搭載していると回答した消防本部もありました。

患者さんや同乗者にはシートベルト着用を促すケースが多いものの、救急隊員のシートベルト着用率は高くない(PHOTO:写真AC_うさみのん)
患者さんや同乗者にはシートベルト着用を促すケースが多いものの、救急隊員のシートベルト着用率は高くない(PHOTO:写真AC_うさみのん)

患者さんの命を守るためには、まずは救急隊員の方々の安全確保から

 緊急走行10万件に13.9件という事故発生リスクは、極めて低いものの、事故が発生していないわけではなく、前述したように、実際に調査回答があった消防本部だけでも、3年間で130人の人が負傷していました。今回の調査は、コロナ禍前の2019年までの3年間の調査であり、出動件数が大幅に増えたコロナ禍においては、さらに事故は多く発生し、負傷者も増えていたことが推察されます。

 多くの消防本部が行っていると回答した救急車の安全運転に関する取り組みや、広がる運転支援装置の搭載などももちろん必要ではありますが、それでも事故は起こってしまうものです。そのときでも、負傷リスクを下げることができるシートベルトの着用は、搬送中の患者さんや付き添いの人はもとより、救急隊員にあっても必要なこと。

 救急隊員が負傷してしまったら、搬送中の患者さんの処置に支障があるほか、ほかの救急搬送にも支障が生じてしまいます。救急車が必要な患者さんの命を守るためには、救急隊員の方々の安全確保は必須です。本調査の結語にもありましたが、搬送中のシートベルト着用に関するガイドラインの作成やトレーニングが求められます。

救急隊員が負傷してしまったら、搬送中の患者さんの処置に支障があるほか、ほかの救急搬送にも支障が生じてしまう(PHOTO:Adobe Stock_jaraku)
救急隊員が負傷してしまったら、搬送中の患者さんの処置に支障があるほか、ほかの救急搬送にも支障が生じてしまう(PHOTO:Adobe Stock_jaraku)
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