他と違う道を歩め! 名車スバル サンバーはなぜ後にエンジンを積み続けたのか?

他と違う道を歩め! 名車スバル サンバーはなぜ後にエンジンを積み続けたのか?

 1961年に富士重工業(当時)が送り出した軽商用車「サンバー」。トラックタイプとバンタイプが用意されたこのクルマでは、商用車では異色のRRが採用されている。なぜこの決断に至ったのか、スバル サンバーの歴史を紐解いてみる。

文/片岡英明、写真/スバル

■軽商用車の傑作スバル サンバー

1961年登場の初代スバル サンバー(トラック)。当時の商用車の中では群を抜いてソフトな乗り心地を誇っていた
1961年登場の初代スバル サンバー(トラック)。当時の商用車の中では群を抜いてソフトな乗り心地を誇っていた

 乗用車の影に隠れて目立たないが、商用車には傑作が多い。とくに軽自動車規格の商用車は連綿と歴史を紡ぎ、昔も今も小口配送のよきパートナーとして愛され続けている。

 その代表が、富士重工業を名乗っていたスバルが1961年(昭和36年)2月に送り出した軽トラックの「サンバー」だ。

 が、このクルマについて解説するには、その3年前に鮮烈なデビューを飾ったスバル360について触れる必要があるだろう。スバル360がなければ、サンバーは誕生しなかった。

 1950年代半ば、富士重工業が最初の量産車に選んだのが、多くの特典を持つ360ccの軽自動車だ。軽自動車は16歳で取得できる軽免許で乗れたし、定期的な車検も必要ではなかったからである。税金などの維持費も安い。

 開発リーダーに抜擢された百瀬晋六は、4人が乗れる優れたパッケージング、そしてバスと同等レベルの登坂性能と加速性能を備えていれば売れるだろう、と考えた。

 全長3m以下の大きさの軽自動車で大人が4人座れるようにするには、リアにエンジンを置き、後輪を駆動するリアエンジン、リアドライブのRR方式が最適だと判断したのである。

 同じ時期、イタリアのフィアット社で技術部長だったダンテ・ジアコーサがRR方式のフィアット600とフィアット500(ヌオーヴァ500)を発表し、その優位性を証明した。

 BMCのアレック・イシゴニスが革命的なコンパクトカー、「ミニ」を発表するのは1959年だ。FF方式の軽自動車が主役になるのは、それから10年以上も先のことである。

■名車・スバル360のノウハウを活かして開発

1961年登場の初代スバル サンバー(バン)
1961年登場の初代スバル サンバー(バン)

 スバル360は1958年3月にデビューした。その翌年、伊勢崎製作所で軽自動車サイズの多目的トラックの開発がスタートしている。コードネームは「K151」だ。正式発売された時はスバル「サンバー」を名乗った。SAMBARは、インド産の鹿の名前である。力強いルックスで、俊足だったことから選ばれた。

 サンバーが狙ったのは、販売が落ち込んできた軽3輪トラックの代替え需要だ。4輪なら幹線道路でも山岳路でもドッシリと安定した走りが可能になる。

 百瀬晋六は、早い時期にトラックだけでなく、ルーフを延ばして4人乗れるようにしたバンの投入も考えている。問題点は全長3mのボディサイズのなかで、広い荷台と積載空間を確保することだ。

 だが、これはトヨタのトヨエースが先鞭をつけたキャブオーバースタイルを採用することで解決した。ボンネットのないキャブオーバースタイルなら、キャビンも荷台も広くできる。だが、衝突安全性が指摘された。そこで開発の早い段階から前面衝突性能を高めることに心血を注いでいる。

 もう1つ、開発初期に議論されたのがパワートレインの搭載位置だ。1つは、シートの下にエンジンを置き、プロペラシャフトを使って後輪を駆動する一般的な方式である。もう1つの案は、スバル360と同じようにリアエンジン、リアドライブにすることだった。

 スバル360で多くのノウハウを得ているし、生産設備の変更も最少で済む。生産性やコストを考えるとRRレイアウトが最適だ。エンジンや駆動系などのメカニズムは、スバル360のものを改良して搭載できる。また、スバル360の登坂性能が優秀だったことも決め手の1つになっている。

 だが、商用トラックで重要視されるのは、荷台のフロアの高さだ。これを低くして積載性を高めるために、モノコック構造ではなく箱型断面のラダーフレームを採用した。荷台の広さは軽4輪トラックの中では最大の1.4mだ。荷台のフロア面の地上高も350mmと、もっとも低く抑えられている。

 リアに搭載するエンジンは、スバル360から譲り受けた空冷2サイクル直列2気筒のEK32型だ。総排気量は356ccで、最高出力18ps/4700rpm、最大トルク3.2kg-m/3200rpmを発生する。最高速度は80km/hだった。

 サスペンションはスバル360譲りの4輪独立懸架(トーションバースプリング/トレーリングアーム)で、ソフトな乗り心地を売りにする。

 サンバーは1960年秋の全日本自動車ショーでベールをぬぎ、1961年2月に正式なデビューを飾った。最初にトラックが発売され、その2カ月後には3ドアのライトバン(K161型)を追加設定している。トラックは350kg積み、ライトバンは250kg積みだ。

 1962年にリアにドアを追加した4ドアモデル(K162型)をラインアップした。また、海外向けに左ハンドルに変更し、スバル450と同じ450ccエンジンを積んだサンバーの生産も開始する。

 だが、RR方式だから空荷の状態や滑りやすい路面では直進安定性に難があった。慣れないドライバーは、突然の蛇行にパニックに陥ったり、ステア特性が変わる現象に悩まされている。

 ユーザーから文句が出るたびに、エンジニアはスバル360と同じように真摯に改良を行なった。対策として、前後の重量配分の工夫やリアの荷重負担の軽減など、多くの改良を施して商品性を高めていったのだ。

次ページは : ■細かな改良でユーザーからの信頼を獲得

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