■なぜ、私がレスキュー隊に!??
新隊員訓練を終えて配属されたのは、なんとレスキュー小隊だった。
事前希望など一切なし、あまりにも理不尽な振り分けに、「ふざけるな!」という気持ちでいっぱいだった。「白バイ乗りになる」という夢がなかったら、辞めていたかもしれないほど、ブチ切れ状態だった。
マルキのおもな勤務は、平時ならば、都心の官庁街や大使館周辺で民間警備会社のガードマンみたいな勤務の日々である。1日中、指定された場所を交代で立番、待機の繰り返しとなる。
夜間も交代で、一定時間の仮眠ができた。110番は所轄任せだから関係ない。つまり、平時はわりとのんびり勤務だったのである。
ところがレスキュー小隊は違った。日々、訓練、訓練で、一般の中隊員とは別行動が多かった。街中でののんびり勤務の機会は少なく、一般中隊員がどれほど羨ましかったことか。
とはいえ、先輩方の多くも、私と同じく理不尽な人選によりレスキュー小隊に配属されており、入隊直後は絶望的な気持ちだったという。
ところで、マルキは所轄などと違って時間の余裕があるためか、よくマルキ同士の対抗戦が開催されていた。
たとえば、レスキュー競技会もその一つだ。
水平に渡されたロープを渡る「ロープブリッジ渡橋」などで普段の訓練の成果を競うのだが、実際にロープ渡りが必要となる救助現場に警察レスキューの出番がやってくることなどなかった。そもそも、ロープを張るのにももたつく始末、実際の救助現場では間に合わないというのが現実だった。競技会の競技は明らかに見せるための技術であり、訓練だったと思う。
実際の救助活動で多かったといえば、交通事故現場。運転者が車両内に閉じ込められるという事案だった。
しかし、多くは現場に到着するも、すでに本家である消防隊が活動中なので、お呼びでないという場合が多く、たまに出番があるのはすでに運転者が亡くなっている時だった。というのも死者の取り扱いは警察の仕事だったからだ。
警察レスキューなど、人も装備もムダというのが、経験者である私の個人的な意見である。
実際、警察学校時代、マルキ経験者だった助教様から聞いた話によれば、「レスキュー誕生は、マルキがあまりにも暇なので、お偉いさんから隊員たちに何かやらせろという指示がきっかけだった」のだそうだ。
さて、マルキ入りして10カ月後、ひょんなことから、めでたく早期にレスキュー小隊を卒業することになった。
すでにその頃には、部隊のホープと期待されるようになり、後輩も何人か入ってきていた時期だったので少し惜しい気もしたが、とにかくレスキュー小隊から抜け出せるのは嬉しかった。
次の勤務は、千葉県警成田国際空港警備隊。そう、千葉県警への1年間の出向だった。実はダメ元で希望を出していたのが通ったというわけ。これは嬉しい誤算だった。
空警隊では、地元千葉県警の若者たちと一緒に同じ中隊で勤務する。しかし警視庁の隊員ははっきりいってお客様扱い。新隊員の仕事は、地元千葉県警の若者たちの役目だった。そして出向後は、ご褒美として本部行きの切符が用意されていたのである。私は交機入り狙いのため、ダメ元で手を上げた次第だ。
空警隊の思い出はいろいろあるが、それはまたの機会にするとして、1年の出向を終えた私は、本部(交機)行きを待つ身で、新しい係に編入することになる。
空警隊帰りは元の小隊へは戻らないことになっているので、定番だった警備車両の保守、管理を担当するドライバーたちの班(特科や操車という)への配属となる。
しかし、またしてもここで運命の神様からの試練が! 隊内で一番のゴンゾウ(編集部註:どうしようもなくタチの悪い警察官の総称)揃いという班への編入だったのだ。
しかも、新入りは私一人だけ!
新隊員は、3歩以上は駆け足が当たり前。上下関係がメチャクチャ厳しい班でもあり、再び地獄の新隊員生活のスタートだった。
それでもこの隊では、大型や大特免許を取得できたほか、車両の運転技術、整備知識の習得ができ、レスキュー小隊の時と違って、私にとってはプラスになることが多かった。
空警隊から帰ってからも、なかなか交機行きの話はなく、念願の交機入りが実現したのは空警隊から帰ってから2年を過ぎた頃だった。
マルキ生活は、結局のところきっかり4年間。私にとって、いろいろありすぎて語り尽くせないほど、貴重な人間修行の期間でもあったと思う。
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●洋吾(ようご):元警視庁の警察官。交通機動隊や警察署の白バイ隊員を長く務める。運転技術はいまいち、ドジでオッチョコチョイだが、3年連続で取り締まり件数トップの実績もあり。ブログ「脱公務員の部屋・元白バイ乗り親父の話」を公開中。2022年10月『白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記』を上梓。同書のイラストは同ブログのマスコットキャラクター「ニャンコ白バイ隊」。
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