トヨタはクルマの完成度はいうまでもなく、そのマーケティングでも大きな成功を収めている。価格競争については徹底的にライバルの動きを研究したと思われるクルマも多い。
また価格のみならずライバル車種に足りない装備などをユーザーからの聞き取りなどを経て、標準装備化するなどの工夫も凄い。
いかにしてトヨタは日本最大の自動車メーカーになったのだろうか? マーケティングで勝ったトヨタ車をまとめました。
文:渡辺陽一郎/写真:編集部、トヨタ
■先代プリウスは最後のマーケティングで勝ったクルマ
トヨタは販売部門の強いメーカーだから「マーケティングで勝ったトヨタ車」は、たくさんありそうだ。しかし最近はそうでもない。
トヨタも、ほかのメーカーと同じく海外市場の販売比率を高め、日本国内にあまり力を入れなくなったからだ。
これに伴ってライバル車同士の競争関係も薄れ「マーケティングで勝ったトヨタ車」も減っている。日本国内が競争の緩い、ヌルマ湯的な市場になりつつある。
その意味で「マーケティングで勝った」と思わせた最後のトヨタ車は、2009年5月18日に発売された3代目の先代プリウスであった。
2代目プリウスは1.5Lエンジンがベースだったが、先代型は排気量を1.8Lに拡大してリダクションギヤも加え、動力性能と燃費を向上させた。緊急自動ブレーキなどの安全装備も用意され、商品力を総合的に高めている。
販売面では取り扱いディーラーに、トヨタカローラ店とネッツトヨタ店を加え、4系列全店の併売にした。
さらに2009年2月6日に2代目インサイトがGの価格を189万円に抑えて発売され、先代プリウスも価格を急遽抑えた。
3ナンバーボディに高機能なハイブリッドのTHSIIを搭載して、スマートエントリーなども標準装着しながら、Lの価格は205万円だ。CDオーディオやフォグランプを備えるSも220万円で用意した。
このように先代プリウスは、商品力を高めて価格は割安に抑え、販売店舗数は2倍以上に増やしたから、好調に売れて当然だった。
それなのにトヨタは、受注開始の前倒しまで行っている。発売は5月18日なのに、受注を4月1日に開始したから、先代プリウスは発売日から1か月後の受注台数が18万台に達した。これは18か月分の目標台数に相当して、最長で10か月の納車待ちに陥った。
顧客を1年近くも待たせる恥ずかしい事態だったが、販売店では「パナソニックが製造するニッケル水素電池の供給が追い付かない」という言い訳をした。すべての店舗で同じ言葉が聞かれたから、トヨタの指導だと思われた。
ユーザーはプリウスを買ったのだから、パナソニックの話を持ち出すのは筋違いだ。
当時プリウスの商品企画担当者と話をして驚いたのは、先代プリウスが好調に売れて、10か月の納車待ちに陥ったり、電池の供給が不足することを本当に予想できていなかったことだ。
それまでのトヨタのマーケティング能力があれば、何らかの対策は講じていただろう。
つまり先代プリウスは、販売網の充実や割安な価格で大成功しながら、市場の読みを誤った。
この時点で既にトヨタの意識は国内から離れて海外中心になりつつあり、「マーケティングでトヨタが勝った」と思わせる最後のクルマになった。
そして先代プリウスが受注開始の前倒しを行って長期の納車待ちに陥ると、ほかのメーカーまでトヨタの真似をして、受注開始を早めるようになった。
やはりトヨタは日本の自動車メーカーのリーダーなのだろう。顧客にとって不利益になる売り方まで、真似されてしまうのだ。この受注開始の前倒しは今も続いている。
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