ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第二十八回目となる今回は、続発するグループ内の不正に対し、トヨタが導入を示した新しいグループ統治の仕組みについて。不正はなぜ起こったのか? 新たな仕組みで何が変わり、不正は防げるようになるのか?
※本稿は2024年2月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真/ダイハツ ほか
初出:『ベストカー』2024年3月26日号
■不正問題根絶のため新たなグループ統治の仕組みを示したトヨタ
2024年1月末、トヨタはグループ17社に向けてトヨタグループが進むべき方向を示したビジョン「次の道を発明しよう」を発表し、グループ統治(ガバナンス)に新しい仕組みを導入しました。
これは連鎖するグループ企業の不正問題を根絶すべく、グループ統治の責任者を明白にし、何を考え実行すべきかをビジョンとして示したものです。
このビジョンとは原点へ回帰する道に迷わない導(しるべ)と筆者は考えています。
今回、トヨタの豊田章男会長がグループ統治の責任者であることを明確にしました。
これまで社長としてトヨタの改革に全精力を掲げ、グループに目配りができなかったようですが、これからは、会長となって生まれた時間をグループ統治の責任者として割いていくということです。
まずは、グループ17社の株主総会に株主として出席する考えも示しました。
2020年からトヨタ社内、トヨタグループ、関連企業で起こる不祥事が続いています。
2021年には国内ディーラーの「車検不正」の大問題が起こりました。2022年に日野自動車のエンジンの排出ガス/燃費の認証不正が表面化、そして2023年4月にダイハツの衝突試験認証不正、その後に豊田自動織機でもフォークリフト向けエンジンの認証不正が発覚しています。
第三者調査員会の調査の結果、ダイハツ不正は拡大し、2023年末から国内出荷を全面的に停止する事態に発展。今でもほんの小規模な生産しか復旧していません(※編集部註:執筆当時)。
織機のエンジン不正はディーゼルエンジンの出力認証不正に発展し、そのエンジンを搭載するハイエース、ランドクルーザーなどの人気モデルが出荷停止に追い込まれました。
これらに共通しているのは、型式認証制度の下で国に代わって行う認証試験における不正行為です。実際の性能・安全性に関わる問題は現時点で表面化していません。
基準に達していないものを不正で隠すことは動機がはっきりとしていますが、基準を満たす開発ができていながら、不正を働いて認証結果を歪める動機にはより真因の根深さを感じます。
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