クルマ好きのオジサンたちがまだ少年だった昭和の時代。街中を行き交うクルマには、左のフロントバンパーに謎の棒を付けているクルマが多かった。現在はあまり見ることがなくなった、あの棒は今どうしてる?
文:井澤利昭/写真:日産、ホンダ、三菱、写真AC
■フロントバンパーから生える謎の棒。その名は「コーナーポール」
昭和から平成初期にかけ多くのクルマに付いていた、左フロントのバンパーの端からニョキッと伸びるあの棒状のパーツ。最近免許を取ったばかりという若いドライバーのなかには、「見たことがない」「何のためのものなのかわからない」という人も多いのではないだろうか。
筆者にしても、その役割をちゃんと知ったのは免許を取る年頃になってから。子どもの頃は、新聞社など報道関係のクルマがなびかせる旗を付けるためのもの……? くらいにしか思っていなかった。
一般的には「コーナーポール」と呼ばれ、メーカーによっては「フェンダーポール」や「フェンダーランプ」ともいわれるあの棒の正体は、その名のとおりコーナー=クルマの端の位置をわかりやすくする目印となるもの。
その種類は思いのほか多く、シンプルなただの棒から先端が光るもの、手動で伸縮させるもの、リモコン操作やエンジンの始動・停止に連動して伸び縮みする電動タイプのものなど、バラエティに富んでいる。
また、輸入車のなかにはメーカーやブランドのロゴマークがその先端にあしらわれたものも存在していた。
実用性だけでなく、ワンポイントでクルマを彩るオシャレなドレスアップアイテム的な役割を担うほどに、「コーナーポール」の存在はかつてはかなりポピュラーなものであったワケだ。
■実は、初心者ドライバーには嬉しいその機能性
クルマの左フロント先端に立てることで、右ハンドルの運転席からは見えづらい左前方の車幅感覚を把握しやすくする役目を持つ「コーナーポール」。
一見するとただの棒ではあるものの、左のフロントをこすったり、ぶつけたりする危険性がある狭い道路や駐車時での切り返しの場面ではかなり役に立つ存在で、かつては多くの車種でメーカーの純正オプションとしても用意されていた。
また、通常の走行時、自分のクルマが車線内のどれぐらいの位置にいるかを把握するのにも「コーナーポール」は役立っていたという。
特に車幅の感覚をまだ充分に把握できていないがゆえに、ついつい車線内の左端に寄って走ってしまいがちな若葉マークの初心者ドライバーや、普段クルマにあまり乗らないペーパードライバーには有効で、車線からの逸脱やほかのクルマとの接触などを未然に防いでくれる安全装備でもあった。
ところが今、街中を見回してもフロントバンパーから棒が生えているクルマはほぼ皆無。メーカーオプションとして用意されている車種もかなりかぎられている。
機能面での便利さについては、現代においても充分に役に立ちそうに思える「コーナーポール」だが、その存在はもはや絶滅の危機に瀕していると言っていいようだ。
■安全技術の進化によってコーナーポールが絶命の危機に!?
20世紀のクルマには当たり前のように付いていた「コーナーポール」が、なぜここまで廃れてしまったのか?
その理由はいくつか考えられるが、まず昭和の時代と現代では、街中を行き交うクルマのスタイルに大きな違いがあるからだろう。
昭和の頃は自家用車といえばセダンやクーペが一般的であったが、これらのクルマはボンネットが長く、左前方周辺の距離感が目視では把握しにくかったため、必然的に「コーナーポール」が重宝されることに。
一方、ミニバンや軽自動車など、現在一般的となっているクルマはボンネットが短いコンパクトなスタイルのものが多く、車幅に対する運転席からの距離感も測りやすいため、「コーナーポール」の必要性をあまり感じなくなってしまった。
また、コーナーセンサーやカメラなど、いわゆるクルマの安全装備が充実してきているのも「コーナーポール」の絶滅を加速させる大きな理由のひとつにほかならない。
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