衝突軽減ブレーキはまだまだ進化する? 進化の「限界点」を浮き彫りにする3つの要素【10年前の再録記事プレイバック】

衝突軽減ブレーキはまだまだ進化する? 進化の「限界点」を浮き彫りにする3つの要素【10年前の再録記事プレイバック】

 クルマにまつわるさまざまな限界をとことん探る2013年の本誌企画から、衝突軽減ブレーキの「限界」についての考察をプレイバック! 交通コメンテーター 西村直人氏に話を聞いた。(本稿は「ベストカー」2013年8月10日号に掲載した記事の再録版となります)

文:西村直人

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■衝突軽減ブレーキの進化に限界はあるのか?

ダイハツ ムーヴの「スマートアシスト」の衝突回避実験風景。5万円と割安な価格だ
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 車両に搭載される先進運転支援システムのことを総称してADAS(Advanced Driver Assistance Systems)と呼んでいるが、なかでも日本で認知度が高いのは「衝突被害軽減ブレーキ/AEBS(Advanced Emergency Braking System)」だろう。

 ADASの限界は、いわばクルマの安全技術に関する自動化の限界だと言い換えることができる。ただし、この限界はひとつの尺度で評価できるものではない。

 大まかに言って次の3つの要素によって限界値が浮き彫りになってくる。

(1)国で定められた規格上の限界。
(2)センサーの検知能力の限界。
(3)ドライバーに対する情報伝達の限界だ。

 (1)の限界とは、ASVで定められた枠組みのこと。

 スバル「アイサイト」、メルセデス・ベンツ「レーダーセーフティパッケージ」、ボルボ「シティセーフティ」など各社で呼び名が異なっているが、自動ブレーキが掛かるタイミングと減速度は国土交通省の先進安全自動車(ASV)推進検討会で乗用車と大型車、それぞれについて規定値がある。

V60のシティセーフティは対歩行者の安全性能も高い
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 つまり、日本で販売されている「AEBS」 装着車は必ずASV検討委員会で定められた制御ロジックに則って開発されているわけで、センサーの方式や精度、減速Gの立ち上がり速度に違いがあるものの、大きな意味で「AEBS」機能は全車ほぼ横並びである。

 現在、許されている減速量は輸入車ではメルセデス・ベンツの新型「Eクラス」の50km/h分、国産車ではレクサス「LS」の40km/h分が上位だ。

 ここで解釈が難しいのが、この数値は完全停止を保障するものではない。

 その速度での走行時に、車両が持っている運動エネルギーをゼロにするだけの減速度(≒制動力)をブレーキが発揮できる、と謳っているだけなのだ。

 つまり、あくまでも計算上の数値でしかないのだ。しかもこの値は悪天候時などで路面μが低い場合は当然低くなる。

VW up!は全グレードにシティエマージェンシーブレーキを装備
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 (2)の限界とは、センサーが検知できる距離や物体を把握する能力だ。

 多くのADASが使用している77GHzの長距離ミリ波レーダーセンサーは、メルセデス・ベンツの場合で最大走査角18度の範囲で200m先の物体を把握する。

 ステレオカメラの場合それよりも検知できる範囲は広いが距離はそれよりも短く、赤外線センサーはさらに短い。

 また、ステレオ/単眼問わず、電子カメラの場合は西日や強い光がカメラを直撃すると眩惑するためセンシングができなくなるなどの限界がある。

 (3)の限界とは、危険をどうやってドライバーに伝えるのかという点だ。

 現在、衝突などの危険が差し迫った場合には、これもASV検討委員会で定められた「衝突予測時間/TTC(Time To Collision)」に応じて、警告ランプが点灯するとともに警告音が発せられ、状況によっては警告ブレーキが機能する。

 しかし、警告音はその他の警告、例えばシートベルトの未装着や、サイドブレーキの戻し忘れを知らせる警告音と音色を同じくする場合が多く、さらに、発せられるスピーカー位置も同じであるため、ドライバーの耳に“危険な状態”を知らせる情報として認知されにくくなっている。

 また、走行中はロードノイズや風切音などの外部からの音源に警告音が邪魔されることもあり、現在の規定ではドライバーに危険が差し迫ったことを伝えるには役不足であるといわざるを得ない。

 その点、キャデラック「ATS」はシートに内蔵されたバイブレーションで危険を知らせるなど新たな取り組みを行なっている。

 国産/輸入車問わず、情報をドライバーに伝える手段はもっとあるはずだ。クルマに搭載される安全技術の限界はまだまだ先にあると考えたい。

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