2009年初にシトロエンの高級サブブランドとして発足したのがDSオートモビルだ。2015年にシトロエンから独立したブランドとなるが、それまでの間にCS3をベースとしたDS3、ついでDS4、DS5を相次いで発表しラインナップを拡充させてきた。
現在のラインナップはDS3クロスバック、DS4クロスバック、そして2020年に発表となったセダンモデルDS9の3車種(ただしDS9クロスバックは現在のところ日本未導入)。
「DS」で検索をかけてみると、DSオートモビルの紹介文には「フレンチ・ラグジュアリーを具現化した、パリ生まれのクルマ」との文言が掲げられている。
実際、その「フレンチ・ラグジュアリー」がどこまで日本ユーザーを満足させられるかが、国産人気モデルの倍近くある価格差を乗り越えるカギとなるはずだ。
今回はそんな背景をもったDS3クロスバックのEVモデル「E-TENSE(イーテンス)」に、自動車評論家 鈴木直也氏が試乗してくれた。
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※本稿は2020年12月のものです
文/鈴木直也、写真/ベストカー編集部、撮影/池之平昌信
初出:『ベストカー』 2021年1月26日号
■シリーズ初のEVモデル「DS3クロスバックE-TENSE」
PSAはプジョーとシトロエンをルーツとする自動車メーカーだが、そのなかでプレミアムブランドとして独立したのがDS。
そこには高級車ブランドの復興を目指すフランスの悲願が込められている。
あえて「復興」と表現したのは、第2次大戦前のフランスはドイツやイギリスと並ぶ高級車大国だったからだ。
カロシェ(カロッツェリア)がドライエやドラージュをベースに上流階級向けカスタムコーチワークを手がけ、ブガッティがGPレースでメルセデスやアルファと覇を競っていたのが戦前のフランス。
アートやファッションに関してはフランスは現在も世界をリードしているのに、こと高級車に関しては後れを取っている……。
それに対する反撃として、DSはフランス独自の世界観を体現したプレミアムカーを目指している。
そのDSの立ち位置を、今最もよく現わしているのが、シリーズ初のEVとなるDS3クロスバックE-TENSEだ。
標準DS3クロスバックでもオシャレだった内外装のデザインは、ホワイトのナッパレザーシートやダイヤモンドキルトの革張りインパネなどでさらにグレードアップ。
全長4120mm、全幅1790mmのコンパクトSUVなのに、やたらキラキラした高級感にあふれている。
こういう、デザインとファッション性で攻めるプレミアムカー戦略は、電動化時代にこそまさにうってつけだ。
例えば、DS3クロスバックE-TENSEの価格はエントリー約500万円。リーフe+とほぼ同価格だ。
しかし、パワーや航続距離など、カタログスペックではリーフ圧勝。
シトロエン伝統のしなやかな乗り心地は大きな魅力だが、それを別にすれば走りで特筆すべきポイントはほとんどない。
従来の価値観だと、DS3クロスバックE-TENSEは割高なだけでいいとこなしに見える。
ところが、実車に接してみると印象はその真逆。
デザインや内装の凝った作り込みについては、このスペースではとても説明しきれないほど見どころ多数で、オシャレ度や持つ喜びに関しては大差でDS3クロスバックE-TENSEに軍配が上がる。
EVは走りでは内燃機関ほどの差別化は難しい。それよりも、デザインにおける芸術性や工芸品のような価値観、あるいはもっと幅広い「文化」といっていいようなものが、プレミアムカーにとって重要なブランド価値になる。
DS3クロスバックE-TENSEは、その戦略が見事に開花したプレミアムEVだと思う。
●DS3クロスバック E-TENSE Grand Chic 主要諸元
・全長×全幅×全高:4120×1790×1550mm
・ホイールベース:2560mm
・車両重量:1580kg
・最小回転半径:5.3m
・最低地上高:185mm
・駆動用バッテリー:リチウムイオン電池/50kWh
・最高出力/最大トルク:136ps/26.5kgm
・一充電走行距離:398km(JC08モード)
・サスペンション(F/R):ストラット/トーションビーム
・タイヤサイズ:215/55R18
・価格:534万円
・CEV補助金:39万6000円
※地方自治体による助成金、5年度分の自動車税免税あり
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