徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はメルセデスベンツのベストセラーであり、90年代前半に一斉を風靡、Eクラスに500SL搭載の5Lエンジンを搭載した500Eを取り上げます。
ポルシェの手によってチューニングされ、ポルシェの工場で作られたメルセデスベンツ版「羊の皮を被った狼」は、当時大きな注目を集めました。
世界で1万台あまりが販売され、日本ではその10分の1以上が販売される人気車となった500E。’90年12月26日号掲載の試乗記を振り返ります。
※本稿は1990年12月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
ベストカー2016年3月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■「絹のような乗り心地に炎のような走り」と称された“4ドアスポーツカー”
メルツェデス・ベンツをベースにポルシェがチューンしたクルマというと、キミたちはどんなクルマを連想するだろうか?
メルツェデス・ベンツ500Eはまさしくメルツェデス・ベンツのEクラスをポルシェがチューニングした4ドアセダンである。
メルツェデス500Eは2年少々前に計画された。もちろん計画したのはメルツェデスである。
当時、ポルシェはアメリカ市場でのマーケティングに大失敗し、経営に苦しんでいた。メルツェデス・ベンツの500E計画は、ある意味このポルシェを助けるものであるといえる。
メルツェデスは300Eのホワイトボディと500SLの5L、4カム、32ヴァルブエンジンをポルシェの研究所であるヴァイザッハに持ち込んだ。
そして、あとはポルシェにすべてまかせた。もちろん、クルマの全責任はメルツェデスが持つから決定権はメルツェデスにあった。
ヴァイザッハではまず、300Eのホワイトボディに手をつけた。フロアを強化し、特にピラーの根元とトンネルは一段と強化された。
何せV8、5L、32ヴァルブユニットは330ps、50kgmもある大パワーだ。こいつに充分耐え得るボディを作ることが重要だ。
その結果、オリジナルの300Eは1460kgと軽量だが、500Eは1700kgというウエイトになった。しかし、ここで重要なのは、まだこれでも500SLの1770kgよりも軽いということだ。
■6.3や6.9とは違う洗練された走り力
500Eの加速はまさしくロケットのごときものだ。何しろ0~100km/hは6.1秒、0~1000m 25.6秒というもので、これはポルシェ・カレラに匹敵するものすごいものなのだ。
この加速を500Eはウルトラスムーズにフルオートマチックでアッサリと実現する。少なくとも、私の経験ではこのクルマほどスムーズに平和なうちに空恐ろしいほどの加速をするクルマはない。
メルツェデスはかつて300SEL6.3や450SEL6.9で、ものすごい加速の乗用車を作っている。
しかし、それらと500Eは相当に異なる。6.3や6.9がストリートドラッグという性格を隠さないのに対して500Eは、あの500SLのすばらしく、スムーズなフィールを少しも失うことなく、6.3や6.9以上の加速を実現しているのである。
濡れた路面では注意深く調整されたトラクションコントロールが500Eに最大の加速力と安全を与えてくれる。
サスペンションは決して柔らかくはないが、乗り心地は決してドライバーにとって不快じゃない。ロールは適当で、あくまでもスムーズにコーナーをクリアする。
スティアリングは少し軽めでそれでいて従来のメルツェデスよりもシャープ。このへんはポルシェ流を感じる。
すばらしいのはブレーキで、それこそブレーキを踏む行為が楽しくなってしまうほどだ。
このクルマは4人乗り、4ドアのGTである。それは300Eより速いだけではない、もっと高級でもある。静かでスムーズ、かつファンなのだ。
300E(715万円)の2倍以上の1550万円だが、500SL(1580万円)よりも走りは上かもしれない。
500Eは現代で最もメルツェデスらしい4ドアサルーンといえるだろう。
◎メルセデスベンツ500E主要諸元
全長:4755mm
全幅:1795mm
全高:1410mm
ホイールベース:2800mm
エンジン:V8DOHC
排気量:4973cc
最高出力:330ps/5700rpm
最大トルク:50.0kgm/3900rpm
車重:1700kg
トランスミッション:4AT
サスペンション:ストラット/マルチリンク
10モード燃費:5.4km/L
当時の価格:1550万円
登場年:1991年
