GTI、ジー・ティー・アイ……その名を聞くと車好きはハッとする。いたって普通の小型車に、その名が付くだけで、たちまちスポーツカー顔負けの走りを披露する。
そんなGTIの元祖、初代ゴルフGTIは全長3.7m級で車重も800kg程度しかなかった。ところが、今や車は大きく、重く、そして高くなってしまった。そんななか新たに登場する“最小のGTI”に一足早く試乗。
初代ゴルフGTIと変わらぬサイズのUP! GTIは、大きな期待に応える小さな弾丸となるか!?
文:渡辺敏史
ベストカー2018年3月10日号
最小のGTIは6月に日本導入!

2018年6月にはUP!、秋にはポロとフォルクスワーゲン(VW)は今年、日本市場に2つの「GTI」を投入する予定だ。先代のWRCでの活躍もあって、銘柄的にみれば今やポロはVWブランドのスポーティネスの源泉といえるかもしれない。
が、個人的にずっと気になっていたのはUP! GTIの存在だ。
いわゆるAセグメント(※国産車ではパッソ、マーチ等が該当するサイズ)として括られるコンパクトな体躯、軽い車体と組み合わせられるリッチなトルク&パワーのエンジン、機敏な運動性と高いスタビリティとの両立など、予測されるディテールからはかつて自分も所有していたルポGTIとの連続性が感じられる。
ちなみにVWにいわせればUP! GTIの動力性能は初代ゴルフGTIのそれとほぼイーブン。若者には新鮮な、年配者には懐かしいGTI体験を廉価で提供できることもまた、大切な存在意義だという。
UP! GTIはまさに「羊の皮をかぶった狼」

シャシー回りについてはダンパー&コイル、フロントスタビライザーの特性を再チューニング、前後サスペンションメンバーの補強と併せて大入力にも耐えるセットアップを施している。
それでもモノコックは基準車と同等のものを用いているというから、いかにup! の基礎剛性が高いかを示すものだろう。
装着される17インチタイヤ&ホイールはインセットをギリギリまで調整することで前後共に8mmのトレッド拡大を稼ぎ出している。
目に見えるところだけでなく、間接照明などにも赤の差し色が配される内装回りで印象的なのは、やはりGTIであることを一目瞭然とするチェック柄のスポーツシートだ。
そもそもが簡便さを売りとする車だけに厚化粧は施されないが、それはそれで羊の皮を……的に称されてきたGTIの歴史の韻を踏んでいると見えなくもない。
そして、注目のエンジンは115psを発揮する1L、3気筒直噴ターボを搭載。VWの量産車としては初となるガソリン用パティキュレートフィルターを採用し、RDE(排ガスの実路走行試験)規制準拠となる2019年からのユーロ6dを先取りでクリアしている。
肝となるエンジンの長短は?

6速MTを介してこのエンジンをぶん回すことで得られる動力性能は0-100km/h加速で8.8秒、最高速が196km/hと、先述の通り初代ゴルフGTIと差はほぼない。
そのフィーリングは小排気量にありがちなどっかんターボ的仕上がりとは真逆で、最大トルク発生域の2000回転より下側からしっかりと湧き出るトルクの恩恵もあって、さながらディーゼルエンジンのようにフラットな印象だ。
さりとてレッドゾーン手前の6000回転付近まではしっかりパワーもついてくるのでパワーの伸び感もそれなりに味わえる。標準車も然りだが、バランサーレスでここまでスムーズなエンジンを作る生産精度の高さには恐れ入るばかりだ。
唯一気になったのは主に低回転域でのスロットルレスポンスがややネムく、シフトダウン時のブリッピングと変速の間合いに気遣う場面があったことだろうか。
そんなエンジン以上に感心させられるのはシャシーの側で、その車格が信じられないほどにスタビリティは高い。多少のギャップなど、ものともせず四輪、特にリア側をきっちり踏ん張り抜かせて超安定姿勢でコーナーをクリアしていく。
アシは基準車より特にコイルレートが大きく締め上げられているようだが、そのライド感は日常的な速度域でも標準車以上に快適で上質だ。
すなわちGTIの本懐は運動性能を偏狭的に際立たせるのではなく、そのスポーティネスを毎日のアシとして基準車以上に快適に使える性能と両立させることにあるといえよう。
■VW UP! GTI
・全長×全幅×全高:3600×1641×1478mm
・車重:1070kg
・エンジン:直列3気筒ターボ、999cc
・最高出力:115ps/5000-5500rpm
・最大トルク:20.4kgm/2000-3500rpm
・価格(ドイツ本国):約233万円
・日本導入時期:2018年6月頃(予定)