徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はホンダ ビートを取り上げます。
軽自動車初のミドシップオープンとして誕生したビート。当時無敵を誇ったF1エンジンからフィードバックされた新型エンジンE07Aは、多連スロットル、燃料噴射マップ切り替えなど、最先端の技術が投入されNA(自然吸気)ながら軽の自主規制枠いっぱいの64psを発生しました。
フルモデルチェンジすることなく1995年10月には絶版となりましたが、今でも高い人気を誇っています。
MGやロータスなど、ブリティッシュオープンカーが大好きだった徳さん。独自の視点が光ります。『ベストカー』1991年の試乗記をリバイバル。
※本稿は1991年に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2015年4月10日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■小気味のいい出来のよさ
ミドシップ・スパイダー、こいつはいいヨ。
ミドシップのフルオープンといえば、私の知るかぎりフェラーリ・モンディアルTカブリオレのみだ。
ホンダはこの見るからに軽快なミドシップ・スパイダーに自然吸気エンジンを与えた。このエンジン、低速から超高速(9000rpm)までトルクがある。けっしてターボユニットのような、バカトルクではないが、運転を大いに楽しめるのだ。
そして5スピードボックスのシフトフィーリングのよさも特筆に値する。こいつは最近珍しい出来のよさだ。
サスペンションセッティングは、極めてオーソドックスなドライバビリティと乗り心地のバランスのとれたものにしている。そのためにホンダは、このちっぽけなミドシップカーの前後タイヤサイズをフロント13インチ、リア14インチと変えるということまでやっている。こうなれば、問題は、そのスタイルがどうだということだけじゃないか。
■ビートのスタイリング
ビートのスタイルは、少なくともNSXよりもはるかにいい。全長3300mm、全幅1400mmという軽自動車枠のなかに、よくこんなデザインができたと思えるくらいのプロポーションだ。特にいいのは横から見たときで、フロントから柔らかい膨らみのラインを持ち、そしてフロントスクリーンへ。このスクリーンのカーブ、高さとともに絶妙なのである。
サイドの抉りとエアスクープも可愛らしい。そして少しずつ持ち上げながらのリアのフィニッシュもいい。驚いたことにソフトトップをかぶせた時がまたいいのだ。
ちょっと惜しいのはライトだ。こいつはスペースの関係でこうなったという。この種のクルマなら“それならいたしかたない”と納得できる。
そしてインテリア、こいつが実にセンスいい。ゼブラ模様のシートはファブリックの素材感もいいし、模様もいい。独立したメーターナセルのかっこいいこと。昔、この手法はアバルトの専売特許だった。今でもモーターサイクルのものであるが。
というわけで、ビートは実にいいデザインを得たといえる。この貧乏くさくないデザインが日本のクルマにできるとは、正直思わなかった。ボディカラーは黄色も可愛らしいが、シルバーも相当よい。でももし私が自由に色を選べるとしたらブラックだろう。
■ビートが提示する価値
ホンダはこのビートを日本のコミューターにしようと思ったらしい。こいつは私も賛成だ。このビートはスポーツカーの成り立ちだが、こいつをシティコミューターにしてしまうのがオシャレだと考えているのだろう。
小さくてすばしっこいコミューター、それは30年前に現われたMINIだ。しかし、コミューターとしては「モノ」がおけなくて不便じゃないかい? との疑問はわく。荷物がのったほうがそら便利だ。人間だって4人乗れるほうが便利だし、ことによると5人より7人、7人より9人乗りのほうが便利だ。
そうやってクルマというモノは大きくなってきたんじゃないのかナ。
ビートはその拡大に次ぐ拡大を果たしたクルマというものへのひとつの提案なのだ。そこがビートの真の価値である。
小さいメリットは数多くある。そのメリットにビートは“プライド&ジョイ”を与えたのだ。そのためのミドシップであり、スパイダーボディであり、リッターあたり100馬力近い自然吸気エンジンを与えたのである。
ビートに乗るとオートマチックトランスミッションのイージーさがよくわかるだろう。その代わりというべきか、クルマを動かす楽しさが今さらのごとく思い出されよう。
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