世界中の大型サルーンのベンチマークとなるのがベンツSクラスだろう。快適性、安全性などすべての点で秀でた点がなければならない。
初代レクサスLS(日本名セルシオ)はこのカテゴリーに斬りこんだ日本車のパイオニアだった。進化を続けているレクサスLS。
2018年8月にLSは一部改良を実施し、初期型で指摘された固すぎる足回りなどが修正されているのだろうか? Sクラスへ挑むレクサスLS。
元日産のエンジニアにしてGT-R(R35)を生み出した水野和敏氏がインプレッションします。
文:水野和敏/写真:
ベストカー2019年1月26日号
■LSは厳しい評価を覆す一部改良になっているのか?
みなさんこんにちは、水野和敏です。
デビュー直後に非常に厳しい評価をさせていただいたレクサスLSですが、なんでも2018年8月に一部改良を実施して足回りを中心に操安性能をリファインしたとベストカー編集部から聞きました。
異例ともいえる早さで行われた今回の変更、すごく興味がわきます。さっそく試乗して、どこが変わり、その効果はどうなのかを見てみたいと思います。
レクサスLSが、特に主戦場である北米マーケットでライバルとして対峙している、ベンツSクラスと比較しながら評価したいと思います。今回は48Vモーターと組み合わせたS450を試します。
以前乗ったのはLS500hでしたが、前型車に対して、足回りとシートの進化が高級サルーン向けとはとても思えないもので、厳しい評価をさせていただきました。
それにしてもレクサスLSと並べてみると、ベンツSはこんなにもおとなしいデザインだったのか!? サイズが小さく見えてしまうほどです。やはりちょっと一世代前という印象です。
下のEやCがどんどんボリューム感のあるフロントマスクになり、フォルム的にも張りを感じさせるものになってきているので、相対的にSはまとまりすぎて小さく見えます。
空力技術の投入もEやCよりも控えめです。
レクサスもフロントマスクの下をワイドに広げるデザインとして踏ん張り感のある、ワイドな前顔を表現しているので、よりいっそうSが小さく見えてしまいます。
Sはデビューから5年ほど経っているのでしかたないのですが。しかしそれでも要所の空力処理はLSよりもSのほうがきちんとされています。レクサスはキモの部分をもっと詰めてほしいところです。
例えばフロントタイヤ周りですが、レクサスはバンパーサイドから回り込んでくる風の整流が弱く、タイヤとフェンダーの段差も大きく、さらにフェンダーのオープニング隙間は拳が余裕で入るほど大きい。
これでは風がタイヤハウス内に大量に巻き込んで入り、クルマを持ち上げるリフトや空気抵抗になってしまいます。
対してSクラスはタイヤ、ホイール側面とフェンダーがほぼ同一面にあり、またフェンダーオープニングも拳が入らないほどに詰められています。
私の単なる推定ですが、ここだけでも地面が動く『ムービングベルトタイプ風洞』で計測すると空気抵抗(Cd)、リフト(Clf)ともに0.03程度は差が出ると思われます。
しかし皆さんが普段写真などで見る、フロア下の風が流れず、床に車両を置いただけの『実車スケール風洞』ではこのへんの差はあまり出てきません。
しかし実際に走行しているクルマのフロア下には巨大なエネルギーを持った風が流れているのです。特に雨の日は空気が重くなり、風の力は倍になっているのです。
雨の100km/hは晴れの200km/h走行と空気の作る力は同じくらいになるのです。雨中走行での燃費の悪さやクルマのフラツキの大きな要因なのです。
空気抵抗が小さくリフトのないベンツは、雨の高速でも楽に片手運転で走れるけれど、抵抗が大きくリフトが出るクルマは緊張して両手運転しなければならないのです。
これは誰にでも体感できることですし疲労感には大きな差が出ます。またこの部分は、ブレーキの冷却でも差が出ます。
ホイール側面を風がきれいに流れ、タイヤハウス内部の空気を吸い出す形状にすると、吸い出されるフレッシュエアがブレーキローター全面に当たり冷却効果が出ます。
ここでスムーズに風を流すために、最近のベンツAMGパッケージではホイールのリム部分にエアガイドを設定しているほどです。
私がグループCカーをやっていた時、ブレーキが厳しい真夏のレースでは、この部分の風をスムーズに流してタイヤハウス内の空気を吸い出し、カーボンブレーキローターを冷却するために、一見逆効果に見えますが、ホイールに専用のキャップカバーを付けていました。
LSはブレーキローターも対向ピストンキャリパーも大きく容量のある仕様を採用しています。せっかくだから、初期の効き向上やフェード限界を上げるためにも穴あきローターにすればいいのにと思います。
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