高市政権が自賠責からの借金約5741億円を一括返済へ――30年「宙づり」だった自動車ユーザーのお金と返却の影響

高市内閣が方針転換――補正予算で未返還分5741億円を一括返済へ

 こうした長年の課題に対し、高市内閣は2025年11月、「強い経済」を掲げた経済対策の一環として、一般会計から自動車安全特会への未返還分5741億円を、2025年度補正予算で一括返済する方針を打ち出した。

 自民党の小林鷹之政調会長が、国民民主党の浜口誠政調会長との協議の場で 「高市政権として問題を完全に解決したい」 と説明し、その流れで政府は11月下旬に2025年度補正予算案を閣議決定。その中に、未返還分を全額繰り戻すための財源が計上された。現在国会審議中で、成立すれば長年の「宙づり状態」に区切りがつく。
(※ちなみに国民民主党の浜口誠政調会長(参議院議員)はトヨタ自動車/自動車総連出身である)

 この一括返済の実現に向けては、交通事故被害者団体、日本自動車連盟(JAF)、日本自動車会議所、自動車総連など、多くの関係団体が長年にわたり粘り強く返済を求めてきた経緯がある。今回の方針転換は、そうした動きがようやく結実したものといえる。

自動車ユーザーにとってのポイントと「変わること」

1)自賠責制度への信頼回復
 本来、交通事故被害者の救済や事故防止のために積み上げられてきたお金が、一般会計の財源に回されたまま長年戻ってこなかった。この事実は、自賠責制度への不信の種となってきた。今回、未返還分をまとめてきっちり自動車安全特会に戻すことで、「クルマ・バイクユーザーの保険料は、きちんと本来の目的に使う」という筋を通すことになり、制度そのものへの信頼回復につながる。

2)被害者支援・交通安全対策の安定化
 未返還分が残るなかでも、ひき逃げ・無保険事故の被害者救済、重度後遺障害者への支援、療護センター運営などの事業は続けられてきたが、財源面での不安は常につきまとっていた。5741億円が一気に戻れば、既存の被害者支援・交通安全事業を安定的に続けやすくなる。また、「介護者なき事故被害への備え」など、新たな支援策を検討する余地が生まれるといった効果が期待できる。これは、いつ自分や家族が交通事故の当事者になるかわからないすべての国民にとって、決して他人事ではないポイントだ。

3)中長期的には「保険料見直しの余地」が広がる可能性
 今回返ってくるお金が、自動車ユーザーひとりひとりの口座に直接戻ってくるわけではない。あくまで自動車安全特会の財政基盤が厚くなるという形だ。とはいえ、これまで政府は特会の財源状況を踏まえながら賦課金の引き上げなどを行ってきた経緯がある。未返還分が解消され、特会の財政に十分な余裕が生まれれば、これ以上の負担増を抑えることができる。将来的に、自賠責保険料や賦課金の水準見直し(引き下げを含む)を検討しやすくなる、といった意味での「のりしろ」が生まれると見ていいだろう。

 野党側からも「財政が安定すれば保険料の引き下げにもつながりうる」との指摘が出ており、今後の議論次第では、ドライバーの財布にとってもプラスの方向へ働く可能性がある。

「ようやくスタートラインに戻った」――これからのポイント

 1994・95年度に行われた1兆1200億円の一般会計への繰り入れは、当時の厳しい財政事情を背景にした「臨時措置」と説明されてきた。一方で、その返済が長く滞り、結果としてクルマ・バイクユーザーのお金で一般会計を支えてきた側面があった。

 今回の一括返済は、その意味で「ようやくスタートラインに戻った」と評価するのが妥当だろう。ここから先、自賠責制度をどう改善していくのか、交通事故被害者への支援をどう厚くしていくのか、中長期的に自賠責保険料や関連負担をどう見直していくのか、といった論点が改めて問われることになる。

 借りたものはきちんと返す。当たり前の話が当たり前に行われた話ではあるが、まずはこれまでの政権が積み上げてきたツケをきっちり払うことにした高市政権に、おつかれさまでしたと伝えたい。

 もちろんこの「返却」も含めた補正予算はこれから国会で審議されるわけだが、野党の皆さん、まさかこれに反対はしませんよね? そのうえで、「やる」と決まったガソリン暫定税率の廃止も含めて、これは「これまで自動車ユーザーから取りすぎていた」という話なのだから、よもや「付け替え先は?」だとか「代替財源は?」などという話にならないよう、くれぐれもよろしくお願いしますよ。

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