■地方、物流、自動車産業への大きな打撃
ひとつめは都市部と都市部以外との分断の加速。
東京を含む「都市部」にとってのクルマと、それ以外の多くの地域「都市部以外」にとってのクルマは、まったく意味合いが違う。都市部にとっての自家用車は、ドライブやレジャー、買い物、一部の人にとってステイタスではあるが、都市部以外に住む人々にとって自家用車は通勤通学用途を含む「生活必需品」となっている。
クルマ需要の性質がそもそも異なっており、年間平均走行距離も都市部以外に住む人々のほうが1.5~2倍程度長い。
そうした状況で「走行距離税」を導入すると、いま以上に地方格差が拡大する。1kmの移動に対する価値がそもそも違うのであり、いびつで不公平な課税といえる。ただでさえ燃料高騰に苦しむ都市部以外の在住者へ追い打ちをかけ、都市部在住者との分断が広がる。
ふたつめは輸送費高騰による輸送・物流業界やタクシー、バスなど交通業界への打撃。我が国の物流を支えるトラックや、タクシーの走行距離は、自家用車の比ではない。
コロナ禍以降、宅配貨物の物量は加速し続けているいっぽうで、労働人口の減少や労働環境の問題により物流の担い手が年々減少している。こうしたなか輸送費がさらに割増になれば、(スムーズに輸送費に移行できたとしても)物価高騰につながるだろう。
タクシーも打撃を受けるし、現在地方の公共交通を支えているバスも減少する可能性がある。
そしてみっつめ、これが一番問題なのだが、ただでさえ国際的に「高すぎる」と言われている日本の自動車関連諸税について、「EVが増えているから」といって新たに税金を課すと、日本経済と雇用の基盤を支える国内自動車産業にいよいよ取り返しのつかないダメージを与えることになる。
そもそもいま日本がEVを含む環境対応車に対して税金を減免しているのは、2035年までにカーボンニュートラル社会を実現するという目標のためである。税金が安いからEVが普及するし、インフラ整備も進んでいる。純ガソリン車と同程度の税金になるのであれば普及は止まり、需要が減れば開発速度も落ちる。
そうなると各自動車メーカーは日本市場への投資(国内仕様車への開発資源や販売店支援)が減少して、日本経済はさらなるダメージを負うことになる。そのシワ寄せを食うのは一般国民にほかならない。
日本自動車産業は、戦後の日本経済を支えてきた。その基盤がいよいよ回復できないダメージを受けることになる。
■「世界との勝負」の後押しを
2022年11月2日、首相官邸にて「モビリティの未来に関する懇談会」が開催され、自動車工業会の会長である豊田章男氏と岸田文雄総理が会談した。
その席で豊田氏は総理へ、「経済への貢献を今の60兆円から100兆円に、雇用を550万人から700万人に、そして税収を15兆円から25兆円に引き上げるポテンシャルがあります」と説明している。日本の自動車産業は、搾り取るより育てるほうが(税収を含む)日本経済全体へ貢献できる、と言っているわけだ。
上述のとおり、日本の自動車関連諸税は高額であるだけでなく、二重課税や旧型車への重課税など問題が多い。「見直す」というのであればまずそうした矛盾を整え、そのうえで「世界と互角以上に勝負ができる産業分野」として、背中を押す方向で税制を考えるべきではないだろうか。
【画像ギャラリー】せっかく育ちつつある萌芽を潰さないで…育てれば勝てる!! 現行国産EVたち(11枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方BEVへの免税は完全におかしいと思いますね。既存と同じ論拠ならむしろ課税率を上げるべき対象です。
とはいえ資料に欧州国毎の渋滞税や都市交通税環境税など面倒な租税が入れられてない時点で恣意的な誘導を感じてしまう。
温度差や雪や湿度で世界有数の車に厳しい日本で車検も重要ですし、ガソリンの課税も店舗側がずるい使い方してる部分ありますし、我々国民側が意識変えるべき問題もちらほら。