プロボックス・サクシードが長年愛されるわけ 乗ったら虜!?

 商用車と侮ってはいけない!! “働く男たち”の声を徹底的にきいて作られたプロボックス・サクシードは、運転を飽きさせない「愛で作ったクルマ」だったりする。

 まさに働くクルマ界の頼もしい相棒のこのクルマ、ジャーナリストの渡辺敏史氏が東京〜愛知まで往復して愛知にいる開発主査を訪ねた。

 文:渡辺敏史/写真:藤井元輔
ベストカー2015年4月26日号


トヨタの異端児、プロ・サク!?

 お利口で掴みどころなく面白くない。巷間言われるトヨタ車にあって、僕が直近で凄いと唸らされたのが、2014年にマイナーチェンジを受けたプロボックス&サクシード、略してプロ・サクだ。

 ハイエース然り、トヨタの商用車の出来のよさは多くが認めるところ。その理由を知るためには新しいプロ・サクは格好のサンプルになるだろう……というわけで、一日技工士見習いを装った僕は作業衣を着込んでプロボックスへと乗り込み、一路愛知へと足を延ばすことにした。

 走り込むことで実感するその秘密を、勢いそのまま開発者にぶつけてみようというわけだ。

 新たな1.3LエンジンにCVTを組み合わせたプロボックスGLは、大人3人に撮影機材を載せて、新東名を淡々と走って行く。燃費は15~16㎞/Lあたりとあらば、車格や用途を思えば充分に合格ラインだろう。

 それにしても周囲を見渡せばプロ・サクだらけだ。左車線を静静と走るものあれば、右車線をぶっ飛んでいくものもあり。積むものも走らせ方も多様だ。

下村主査の狙い

 「プロ・サクは法人需要が主なので、売れ方に山谷がほとんどないんです。だいたい月に4000台程度が淡々と売れ続ける。ゆえに会社的には土台として重要なクルマですし、失敗は許されません」

 と、仰せになるのはプロ・サクの開発主査を務めるトヨタの下村修之さん。マイチェンの最大動機は法規の変更にあったという。

 「’15年の燃費規制クリアはともあれ必達。で、新しいエンジンとCVTが必要となるから、プラットフォームは最新世代を基準に考えることになる。それをわざわざプロ・サクの寸法に合わせて幅を狭める施術を行うわけですから、一緒に後々関わってくる歩行者保護の要件も先取りしておこう。

 となると、当然フロント周りのデザインも変わるね……と、変更にまつわる承認をいくつも取り付けるわけです。上役の顔をうかがいながら、タイミングを見計らいつつ」

 ものが商用車とあらば質実剛健そして廉価であることが第一義。だから必要なところだけ手を加えればいい。そう考える役員を口説きながら開発予算を引っ張り出す。下村さんの仕事はサラリーマンの世界では普通にありそうな話ではある。

 「でも、プロ・サクのような商用車の難しいところは、買う側も変化を望まないところがあるということです。顧客調査でお客様に釘を刺されたのは『カッコよくしても買わないよ』ということ。

 そのいっぽうで『何度入れ替えても同じものがきて新鮮味がないんだよね』という話もありました。その声に歩行者保護要件を擦り合わせて、変えておくべきところを集中的にごっそりやったわけです」

 まったく不満の声が聞かれなかったキャビンから荷室の空間はそのままなのに対して、前回りは完全刷新。12年ぶりのマイチェンとしては異質だが、それはあくまでユーザーの意向を最大限汲み取った結果というわけだ。

 「足回り的には前側がまったく新しいいっぽうで、後ろ側は荷室もそのままですから、キャリーオーバーで最適化を図りました。その相性がよかったんですね。しなやかさと粘り強さが巧く両立できていると思います」

 それは僕自身も、ここに来るまでの片道400㎞のドライブで実感したところだった。荷重的には程よいところだったこともあってか商用車にありがちなホッピングもなく、乗り心地も同級の乗用車とさして変わらない。どころか、剛性感は明らかに上回っていて、嫌な残響感も最小限にとどめられている。

 「そもそもプロ・サクのフロアは使用環境や積載量に合わせて強化されていますし、後ろ脚は横ブレの少ない車軸式でとにかくガッチリ作られています。マイチェン前のモデルもそのよさ自体は充分今でも通用するんですが、試乗してみると荒れた路面などで跳ねが収まりにくい傾向があった。これはとにかく改善したかったんです」

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プロボックスと下村主査。「変えないこと」と「変化」を両立しなければならないこのクルマをまとめるのはさぞかし至難の業だったはずだ

プロ・サクの使われ方

 下村さんによると、マイチェン前のモデルが企画された2000年前後に対して、現在のプロ・サクの使用環境は少なからず変化があるという。端的にいえば、以前がほぼ最大積載量を積んでの短距離移動を念頭に置いていたのに対して、現在は流通体系の変化により、4ナンバーバンには小口の長距離輸送能力が重視されるようになった。

 それを裏付けるのが直近の顧客調査で、おおむね100㎏の積載荷重で5年間・10万㎞程度乗られたところでリースアップによる代替というのが、平均的なプロ・サクの使われ方だという。

 「もちろんそれは平均値ですから、我々としてはおおむね20万㎞くらいまでの耐久性や、最大積載量での操安性は必ず担保します。いっぽうで使われ方の変化を考えた時、長時間を車内で過ごす上での快適性はしっかり高めないとならない。音振に関しては新しいパワー&ドライブトレーンの貢献も大きいです」

 ちなみにプロ・サクの場合、法人需要が9割を超えていて、その大半がリース販売となる。それゆえ定期点検もしっかり行われており、車両の全般的な使用環境は傍から想像するより悪くはないそうだ。

 「法人さんの場合、価格や維持費に並び、昨今はコンプライアンス的にも安全にまつわる要望が非常に強くなっています。そして乗る人にとっては疲れず運転しやすいということも重要な安全性能です。プロ・サクは運転して楽しいことを目指してはいません。でも、運転が楽であることは可能なかぎり心がけました」

 北海道は士別にあるトヨタの広大なテストコースで、開発車両をあらゆる状況で1日中走らせてみても疲れない。それがすなわちクルマを、運転を飽きさせないことである。開発時にはそれを確認しましたという下村さんだが、実は内装側にも確かめたことが幾つもあるという。

ユーザーありきの設計

 「ドライバーの利便を高めることが快適性や疲れなさに繋がるという観点でいえば、インパネ周りはまずこちらの叶えてもらいたい機能をすべて設計側で盛り込んでもらい、後でデザイナーに意匠をまとめてもらいました。

 弁当の乗るテーブルや1Lの紙パックが入るホルダーが注目されましたが、例えばコンビニフックの位置は吉野家の牛丼を持ち帰る際、3つ重ねが安定して下げられるようにしています。

 また、機種の形状がどんどん変わる電話のホルダーは後々交換できるようにしました。あと、シートも仮眠を考慮して背もたれをほぼ水平に倒せるようにしたり……と、それらは乗られる方々の要望を洗い出し、できるかぎり反映した結果です」

 楽しいや面白いということにまつわる我は抑え、とにかく万人が乗りやすく使いやすいことに持てるスキルを注ぎ込む。下村さんの話を聞いていると、その地道な仕事ぶりがとてもよくわかる。

 そうやって、プロがプロに徹するがゆえに成り立っているのがプロ・サク、ひいてはトヨタの商用車なのだろう。4ナンバーをして、トヨタのFFコンパクトにおいて最も素直なドライバビリティを持つクルマに仕上がっているのは偶然ではなく、必然というわけである。

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実用性と耐久性をとことん突き詰めた結果がプロ・サクのロングヒットを支え続けている

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