トヨタ車とレクサス車。同じトヨタが手がけるクルマだが、プレミアムセグメントとしてより上級なポジションを担うのがレクサスだというのはわかるけど、両車は具体的にどこがどう違うのか。
本企画では、同じプラットフォームやエンジンを採用した両車の例から探っていこう。
文:渡辺陽一郎、永田恵一、鈴木直也
ベストカー2017年5月10日号
レクサスGSとクラウンに見るそもそもの違い
文:渡辺陽一郎
両車を比べると、共通点と相違点が混在する。まずはプラットフォームだが、ボディの底辺部分は共通性が高い。ホイールベースも2850㎜でまったく同じだ。
しかし、サスペンションは前輪がダブルウィッシュボーン、後輪がマルチリンクの形式は共通でも形状は異なる。
特に後輪はクラウンがスプリングとダンパーを一体にした一般的な形状なのに対して、GSは別個に配置した。前後ともアッパー&ロアアームをアルミ化して高剛性化を図りセッティングも違う。
開発者は「GSのサス形状では、全幅を1800㎜に収められない」と言う。クラウンは基本的に国内向けで全幅の1800㎜は譲れず、足回りをGSと共通化するのは難しい。
レクサスISの全幅が1810㎜になったのもGSをベースに足回りを開発したからだ。1800㎜以下に抑えたかったが無理だった。
GSのエンジンは基本、クラウンと共通。V6、3.5Lと直4、2Lターボはクラウンアスリート、直4の2.5ℓハイブリッドはクラウンロイヤルとアスリート、V6、3.5ℓハイブリッドはクラウンマジェスタと同じ(※)。
※4WDモデルはGSがV6、3.5Lなのに対し、クラウンはV6、2.5Lと直4、2.5LHVだけとなる
また、GSはV8、5LのGS Fを用意するが、この仕様もクラウンはない。GSは海外を中心に売るからイメージリーダーのスポーツモデルが必要だが、国内向けのクラウンは顧客年齢も高くスポーツモデルのニーズは低い。
若返りを目的に用意したアスリートで充分という考えだ。
走りを比べると動力性能は同等。8速ATなどのギヤ比も等しく、車両重量はGSが少し重いが大差はない。
走行安定性は異なる。クラウンアスリートは操舵感が軽快だが、GSは安定性を優先させて4輪の接地性が高い。
ギヤ比を可変式にしたステアリングと後輪操舵を併用するLDHもGSのみの設定だ。GSは安定性の高さに加え、ハンドルやペダル操作に車両が忠実に反応する。
峠道ではボディが軽く感じられ、車両との一体感も得やすい。走る楽しさもGSが勝る。
乗り心地はGSが重厚だ。路上の凹凸を直接的に伝えにくく、スポーティ志向のクラウンアスリートより快適に感じる。
ただ、クラウンロイヤルとホイールベースの長いマジェスタは、足回りを日本の低い速度域に合わせている。GSに比べると操舵感が鈍めで峠道では曲がりにくいが、乗り心地は柔軟だ。

アスリートは走りの性格がGSに近く真っ向勝負になりやすいが、ロイヤルとマジェスタは性格が違うから競いにくい。
特にロイヤルは初代クラウンから受け継がれる日本的な乗り心地と穏やかな運転感覚が特徴だ。GSはベンツなどの輸入車と比較されやすいが、クラウンロイヤルとマジェスタはそうはならない。
内装はGSが上質だが、デザインは欧州車風で抑制を利かせている。クラウンは光沢が強調されて鮮やか。特にロイヤルはシルバーの装飾と木目調パネルの色彩が明るく、日本車らしい高級感がある。
クラウンは前席のセンターアームレストも日本的。大きくて高い位置に装着されるため、車庫入れでハンドルを忙しく回す時にドライバーの左肘が当たりやすい。
アームレストに寄りかかって運転することを想定。誤った運転姿勢だが日本的な配慮ではある。その点でGSのアームレストは低いから肘は干渉しない。
シートはGSがサポート性と腰の支え方で優れ、長距離移動に適する。クラウンロイヤルは座面が柔軟で柔らかく、昔ながらの高級感を表現。
後席はクラウンが快適だ。GSは腰が少し落ち込むが、クラウンは着座位置が適度。身長170cmの大人4名が乗車し、GSの後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ分だが、クラウンロイヤル&アスリートは2つ半になる。
以上のように質感は走りを含めてGSが勝るが価格も高い。2.5LハイブリッドのGS300hは615万3000円、クラウンハイブリッドロイヤルサルーンは502万2000円だ。ハイブリッドが同じでもGSは約113万円高い。
装備はオーディオの上級化やシートの調節機能で30万円、メンテナンスプログラムやGリンクの標準付帯で20万円程度の差があり、残りの約63万円が、GSの走り&乗り心地&内外装の上質化に払われる対価だ。客観的に見てクラウンが割安になる。
また、クラウンを扱うトヨタ店は全国に約1000店舗展開するが、レクサスは約170店舗。レクサスは都市部が中心の展開で1店舗しかない県があり、購入のしやすさもクラウンが圧倒的に勝る。

レクサスISとマークX 実際に比べてわかったこと
文:永田恵一
●動力性能/燃費
アクセルを全開にした際の動力性能はスペックどおりIS200tに軍配が上がるが、常用域では、IS200tはトルク感が薄く、V6、2.5LのマークXとイーブン。
マークXには6気筒エンジンとしては並レベルながら、重厚かつシューンと回るV6を積む魅力もあり、総合的に動力性能を見れば引き分け。
燃費もIS200t優勢ながら大差なく、「ガソリン代を気にするならハイブリッドなどのエコカーを買えばいい」という考えもあり、マークXがレギュラー仕様なのも加味すれば、燃費も引き分け。
●ハンドリング/乗り心地
ハンドリングはプラットフォームの新しさなどもあり、シャープでガッシリ感のあるISの勝ち。乗り心地も小さな凹凸では大差ないが、大きな凹凸の吸収ではドタバタ感が出るマークXに対し、ISのほうがスムーズだ。
が、平均スピードの遅い日本の交通環境や、16インチタイヤを履く標準グレードならマークXの乗り心地が良化する可能性が高い点を考慮すると、ISのアドバンテージはそれほど大きくない。
●内装/居住性/静粛性
インテリアの質感は価格相応にIS圧勝だが、価格差を考えればマークXも大健闘。後席の居住性は前後長に加え、頭上高も広いマークXの圧勝。静粛性は価格相応にISのほうが遮音されていた。
●結論
ISとマークXは各々の要素を見ると、価格を考えれば当然のことながらマークXを上回る要素が多いが、「200万円近い差額ほどの価値があるか? 」と言われると、「NO」というのが率直なところ。
加えてマークXは今後早々買えないものとなりそうなFRの6気筒エンジン搭載車であり、それが300万円以下で買えるという強烈な魅力もある。
この勝負は「迷わずマークX」というのが結論。私はマークXが欲しくなったくらいだ!

そのほかのレクサス車とトヨタ車事例
文:鈴木直也
●ハリアーとレクサスNX
プラットフォームは現行型の北米RAV4と同じ。でもミッションはハリアーの6ATはしかたないけど、NXも6ATなのはどうなの? せっかく8ATがあるのに。
●SAIとHS250h
ほとんど差がない典型例。HSはレクサスが日本でのラインアップを拡充したかった時期に出てきた車種だった。まあ、もう役目は終わったかな。アトキンソンサイクルじゃないハイブリッド車だし。
●先代プリウスとCT
リアサスはCTのほうが上等なものを採用しているけど、Cセグメントに出すという義務感で出てきただけ。CTには新しい高級車としての提案がまったくなくて残念。
●ランクル200とLX
これは逆に世界最高のクロカン4WDとしてのブランドアイコンを持つランクルを、レクサスにも持って来たことでOKじゃないかな。
【まとめ】レクサス&トヨタはアウディ&VWになれるのか?
文:鈴木直也
う~ん、おそらく今のままの体制が続くようなら無理だと思う。同じ会社である以上、社内事情に縛られることから逃れられないからね。だって、社内で実際にやっている人も同じで、サプライヤーだって同じワケだから。
今後、トヨタ車の高級版という位置づけから大きくイメージを変えて、レクサスをプレミアムセグメントで本気で成功させたいのなら、完全に別会社にしてレクサスの本社は東京に置いてまずは形から変えていくのが先決すべき課題だと思う。
そのためには社内カンパニー制では不充分。トヨタとレクサスで完全に違うカルチャーが育つようにするためには、かつてのピエヒのように強力なリーダーシップでアウディとVWで徹底的に差別化を図ったようなやり方をしないとダメ。トヨタ社内で続ける以上、尖ったクルマはレクサスから生まれてこない。
でも、そうするとレクサス車全体の販売価格を押し上げることになってしまうだろうから、「ライバルのBMWやベンツよりやや安い」という立ち位置である現状のほうがいいのかもしれない。
いずれにせよ、これは経営者である豊田章男社長が決断すべきことだけどね。

次にプラットフォームが共用化されるのは、2016年12月にデビューしたトヨタC-HR

これがC-HRのレクサス版、レクサスUX。C-HRと同じHV(直4,1.8L+モーター)以外に、NXと同じ2Lターボ搭載モデルも用意されるのでは、と予測