2026年9月2日、三菱自動車が新型パジェロをワールドプレミアした。1982年に初代が登場し、国内にクロカン4WDブームを巻き起こし、そうしてブームが去ったのち、日本向けの生産が2019年に終わり、輸出向けも2021年で幕を閉じた三菱の大看板・パジェロ。そのパジェロが、5代目として帰ってきた。しかも高剛性ラダーフレームと2.4Lクリーンディーゼル、スーパーセレクト4WD-IIという「本物」の構成を守り抜いての復活である。これは懐古趣味を狙った新商品ではない。三菱自動車・岸浦恵介社長は新型パジェロを「中長期ビジョンを具現化する、尖った商品の第一弾」と位置づけた。もちろん新型パジェロは魅力的でたくさん売らなければいけない販売戦略車だが、三菱がいまパジェロを引っ張り出してきた理由は、もうひとつある。それは海外販売データを見れば痛いほど分かる。三菱は、中国勢に奪われた土俵を、このパジェロで奪い返すつもりだ。以下、自動車情報専門メディアの視点で「パジェロ復活」を整理・解説します。
文:ベストカー編集局長T、画像:土屋勇人、長城汽車、アイキャッチ写真:ワールドプレミア発表会場に置かれた新型パジェロ豪州仕様のカンガルーバー付き仕様
【画像ギャラリー】新型パジェロをじっくり見たい! 世界初披露画像一覧(28枚)画像ギャラリー7年ぶりの復活、しかも「ラダーフレームのまま」
新型パジェロ復活の特徴をひと言でいえば、「まったくブレていないこと」といえる。
新型パジェロのプラットフォームは、砂漠とジャングルで鍛え抜いた高剛性のラダーフレーム。高張力鋼板を活用しつつフレーム断面幅を広げ、軽量化と剛性向上を同時に果たしている。搭載されるエンジンは2.4Lクリーンディーゼルで、最高出力150kW(201PS)/3500rpm、最大トルク480Nm/1750-2500rpm。これに新開発のスポーツモード付き8速ATを組み合わせる。駆動系は伝統のスーパーセレクト4WD-II(SS4-II)で、2H/4H/4HLc/4LLcの4モードを備える。三菱自動車の伝家の宝刀「S-AWC」も搭載する。
ボディサイズは全長4920×全幅1925×全高1910mm、ホイールベース2870mm。最低地上高は230mm(20インチ装着車)を確保し、キャビンは3列シート7名乗り。会場には武骨なカンガルーバーを装備した豪州仕様や、参考出展ではあるもののラリーアート仕様も展示された。ここまで読んで「あぁ、パジェロだ」と胸が鳴った読者は少なくないはず。
新型パジェロは「いつも、ちょっとやりすぎる三菱」を体現した姿で復活した。
モノコック化もせず、電動化一辺倒にも走らず、ディーゼルターボ+ラダーフレーム+リアサスに5リンク式リジットコイルの本格4WDという武骨な構成を、あえて選んできた。この点で、三菱がこのクルマに何を託したのかが分かる。
「走り」の作り込みも念入りだ。北海道・十勝研究所にオフロードコースで悪路走破性を鍛え、世界の特徴的な路面を再現したオンロードコースで乗り味の幅を広げた。さらにタイ、オーストラリア、アフリカなど世界各地で走行試験を重ねたという。「ラリーで磨き上げた四輪制御技術に、先進の予防安全技術と運転支援技術を融合させた」と三菱は説明する。
「プレステージ」という3つ目のキーワード
ワールドプレミア発表会に登壇した三菱自動車・岸浦恵介代表執行役社長 兼 COOは、新型パジェロを「中長期ビジョンを具現化する商品の第一弾」、「三菱自動車ブランドを牽引するフラッグシップモデル」と位置づけた。
ここが今回の肝だ。三菱は2026年5月29日、2030年代に向けた新中長期ビジョンを発表している。掲げたのは「尖った商品・ブランドの強化により、お客様満足と企業価値の向上」。これは薄く広く売って数を追う商売から「降りる」、という宣言に近い。
三菱は「三菱らしさを尖らせて勝負する」と決めたわけだ。
そのうえで岸浦社長は、新型パジェロが従来のConfidence(安心)とComfort(快適)に加え、Prestige(プレステージ)という新たな要素を纏うと述べた。走破性と快適性という既存の二本柱に、「上質さ」「所有する歓び」という三本目を足す。フラッグシップの単価と収益性を引き上げにいく意思表示だと読める。エクステリアはクロカンSUVとしての力強いプロポーションに圧倒的な重厚感を、インテリアは乗員全員が上質感に包まれる居住空間を狙ったという。

なお、パジェロといえばダカールラリーである。7連覇を含む通算12勝。「砂漠の王者」の称号は、いまも三菱が持つ最も強いブランド資産のひとつだ。それを7年越しに呼び起こす。世界的にSUVがハード方面へ寄っていくなかで、「いまこそパジェロ」と世に送り出すわけだ。
中国勢に食われた豪州とタイ、その実数
そのうえで、「いま」であることのもうひとつの事情はが、市場データにはっきり出ている。
三菱の得意市場であるオーストラリア(豪州)のVFACTS統計によれば、2025年(暦年)の三菱は6万1198台で6位、前年比17.9%減。すぐ後ろに迫ったGWM(グレートウォール・モータース/長城汽車)は5万2809台・同23.4%増で7位、BYDは5万2415台・同156.2%増で8位。Chery(奇瑞汽車)も3万4889台(同176.8%増)で13位に食い込んだ。2026年上半期はさらに厳しく、三菱が2万4802台(同25.7%減)と落ち込む一方、BYDは5万2335台(同124.1%増)と伸ばし、月次ではブランド2位を3カ月続けている。
もうひとつ三菱の得意市場であるタイも似た構図だ。2025年のタイ暦年新車販売は62万1166台(前年比8.5%増)と3年ぶりに増えたが、中国ブランドの合計シェアは約25.8%に達した。2021年時点では約6%である。4年で4倍だ。GWMのタンク300に至っては、2025年に7574台・前年比1146%増を記録している。
そしてモデル別を見ると、事態の深刻さがより鮮明になる。豪州の2025年販売ではフォード・エベレストが5位(2万6161台)、トヨタ・プラドが6位(2万6101台)と本格SUVが上位を占めるなか、三菱パジェロスポーツは52位の6052台にとどまり、その真下62位にタンク300が5035台で並んだ。かつて三菱が持っていた「タフで手が届く4WD」というポジションが、そのまま中国勢に持っていかれつつある。

三菱自身の数字も厳しい。2026年3月期は売上高2兆8965億円に対して営業利益755億円(前年比45.6%減)、当期純利益100億円(同75.6%減)。グローバル販売は79万7000台で5%減った。台数を削られ、利益はもっと削られた1年である。
成長投資1兆円と13車種、パジェロは「ブランド」になる
ここからが反撃のシナリオだ。
新中長期ビジョンで三菱が示した数字は具体的である。2029年度に営業利益1600億円・営業利益率4.5%・ROE10%、2030年度以降は営業利益2000〜2500億円・営業利益率5.5%以上・ROE12%以上。今後6年間で13車種を投入し、成長投資に約1兆円を充てる。開発期間は45カ月から36カ月へ短縮し、エンジン熱効率は世界トップクラスの48%を狙うという(ちなみにこの新開発エンジンはHEV用ガソリンエンジンとのこと)。
そしてパジェロは1台では終わらない。岸浦社長は「新型パジェロを頂点とし、コンパクトSUV、スモールSUVを加えたパジェロシリーズを展開してまいります」と明言した。
つまり三菱は、パジェロを車名から「ブランド」へ格上げしようとしている。ランドクルーザーがそうであるように、名前そのものを資産として売るやり方だ。
新型パジェロは、2026年度中にタイを皮切りとし、オーストラリア、日本へ順次投入される。生産はタイ・レムチャバン工場で、日本発売は2026年12月が予定される。来年度以降は100カ国を超える国と地域へ広げるが、初年度のグローバル生産・販売は1万台という規模感だ。国内価格はまだ公表されていないが、本誌は600万円台後半と予想している。
正直に言えば、量販価格や量販装備で殴り合う勝負となると、国産メーカーに勝ち目は薄い。なにしろたとえば中国メーカーは「国家の後押し」を受けて乗用車開発を進めている。タンク300やBYDの攻勢は、まさにそこを突いてきている。
三菱が持っていて中国勢がまだ持っていないものは、40年かけて積み上げた実績だ。ダカールラリー12勝という戦績、砂漠でもジャングルでも壊れなかった技術と信頼の蓄積、それを裏づける中古車価格とアフターサービス網。親父が乗ってた、祖父が愛していた、子供の頃ガレージにあった、名前は聞いたことがある、テレビで走っている姿を見た、いつか乗りたいと憧れていた、そういう「体験の厚み」こそが、三菱とパジェロの持つ強みそのものといえる。































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