ハイブリッド。この言葉を一般化したのが1997年発売のトヨタプリウス。
そんな「パイオニア」が20年経った現行型では販売台数が低下している。かと思えば元に戻ったり……。どっちにしてもなかなか厳しい現状もあるよう。
なぜ苦戦しているのか、その要因は同士討ちだったり、黒船だったりするとか。詳しいところを渡辺陽一郎氏に解析してもらった。
文:渡辺陽一郎/写真:トヨタ
プリウスが売れなくなったってホント!?
プリウスの車名は、クルマ好きでなくても知っているだろう。20年前に世界初の量産ハイブリッド車として発売され、登録車(小型/普通車)の販売ランキングでは、常に上位を独占してきた。
ところが最近はプリウスの人気にブレーキがかかり、売れゆきが急落している。現行プリウスの発売は2015年12月で、2016年は先代型との比較だから対前年比はプラスで推移した。
2016年には2015年の約2倍売れて、軽自動車を含めた国内販売の1位になるそれが2017年に入ると、1月の対前年比が47%、2月は84%、3月は71%、4月は48%と下落の仕方が大きい。直近の5月こそ70%だが、この台数の約30%はプリウスPHVで占められた。
プリウスPHVの発売は2017年2月だが、プラグインハイブリッドや電気自動車に交付されるCEV(クリーンエネルギー自動車)補助金が2017年4月28日の登録から改訂され、延期するユーザーが多かったからだ。
従来のCEV補助金額は9万6000円だったが、改訂後は2倍以上の20万円。これを待って登録したから、5月はプリウスPHVの登録台数が急増した。
それでも対前年比は70%だから、ベース車のプリウスに限ると、対前年比は50%程度になる。

20年の歴史を持つ”テッパン”車種だが最近少し売れゆきが怪しい!?
販売急落の理由はまさかの同士討ち!?
販売が急落した背景には複数の理由がある。まずは現行型の外観や内装が個性的で、好みが分かれることだ。フロントマスクだけでなく、リアビューも個性が強い。
内装では上級のAに備わるフロントコンソールトレイが乳白色で、シートなどの内装色がブラックだとコントラストが強すぎる。
デザインの個性化は悪くないが、プリウスはユーザーの年齢層が幅広く、営業などに使う法人需要も多い。大量生産される車種は、デザインの個性が強いと販売面で不利になることがある。
また先代型が価格を割安に抑えたので、現行型は安全装備の充実などを考慮しても10万~20万円の値上げになった。
プリウスは燃料代を節約できるため、ユーザーも法人を含めて経済意識が強い。値上げにはシビアに反応する。
そして2016年12月にC-HRが発売されたことも影響した。販売店では「先代プリウスから、C-HRハイブリッドに乗り替えるお客様が多い」という。
C-HRハイブリッドGの価格は290万5200円だから、プリウスAツーリングセレクションとほぼ同額だ。C-HRではLEDヘッドランプがオプションになったりするが、装備の水準に大差はない。
プリウスが外観の個性を強めたことで両車が比較され、C-HRを選ぶユーザーも少なくない。個性的な外観は、新しいジャンルとされるSUVと相性がいいからだ。
C-HRの発売が、現行プリウスの登場から約1年後だったことも、プリウスの対前年比を下降させた。
2017年1月以降は現行プリウスの登録台数と比較されるから比率が下がりやすく、この時からC-HRへの代替えも開始されて、対前年比が悪化した。
さらに先代プリウスが2世代前に比べて動力性能などを高めながら値下げを行い、販売系列も増やして(2世代前はトヨタ店とトヨペット店のみの扱いだった)、好調に売れたことも影響している。
人間の平均寿命に相当する平均車齢は2010年の7.6年に対して今は8.3年に延びており、好調に売れた先代型を乗り続けるユーザーが多い。
ちなみに先代型が発売された時点では、コンパクトハイブリッドのアクア(2011年12月発売)はなかったが、今はヴィッツやシエンタも含めて安価なトヨタのハイブリッド車が増えた。
これらの車種に値上げした現行プリウスの需要が奪われた面もある。販売店からは「以前に比べるとお客様のハイブリッドに対する関心が薄れた」という指摘も聞かれる。
カローラにハイブリッドが追加された2013年頃までは「一度はハイブリッドに乗りたい」と考えるユーザーが走行距離に関係なく選んだが、今では関心や興味に基づくハイブリッドの需要が一巡しつつある。
そうなるとハイブリッドは損得勘定を冷静に計算して選ばれるから、1年間の走行距離が5000km程度のユーザーはプリウスを購入しにくい。
販売が鈍った理由として、トヨタのハイブリッドシステムが、今では新鮮味に欠けることもある。燃費は向上したが、モーターと発電機を動力分割機構を介し併用する基本的なメカニズムは、初代プリウスから変わっていない。
ノートe-POWERはモーターだけを駆動させるシリーズ方式のハイブリッドを搭載して、独特の運転感覚が注目され、好調な売れゆきに結びついた。
プリウスではこのような話題性が乏しい。特に歴代プリウスを振り返ると、現行型はデザインを除くと地味だ。
初代プリウスは当然エポックメイキングで、2代目はボディを3ナンバーサイズに拡大して、自動的にハンドルが回って車庫入れができるインテリジェントパーキングアシスト(世界初)も採用した。
3代目はエンジンを1.8Lに拡大して動力性能を高め、なおかつ燃費も向上させて価格は前述のように割安にした。
4系列の取り扱いにより、販売店舗数は従来の約2000店舗から4900店舗に急増して、購入しやすくしている。
現行型もJC08モード燃費を37.2km/L(Eは40.8km/L)に引き上げ、プラットフォームの一新で走行安定性と乗り心地を改善。トヨタセーフティセンスPの採用で緊急自動ブレーキの性能を高めたが、機能と売り方は3代目の延長線上にある。
しかもC-HRは現行プリウスと同じプラットフォームを使って走りと乗り心地が優れ、トヨタセーフティセンスPも備わる。
ハイブリッドのJC08モード燃費は30.2km/Lだから、プリウスよりは悪いが充分に満足できる。こうなると先代プリウスのユーザーがC-HRに流れるだけではなく、現行プリウスの先進性や個性まで薄れてしまう。

プラグインハイブリッドの選択肢がプリウスを苦しめる!?
プリウスPHVは、前述のように4月末にCEV補助金の増額を控えていたから、登録するユーザーが少なかった。それが今後はプリウスの登録台数に上乗せされる。
現行プリウスPHVは先代型と違って外観をプリウスとは区別して、駆動用電池の容量を2倍に増やした。充電された電気による航続可能距離が長くなり、ソーラー充電システム、11.6インチ画面の新しいカーナビも採用する。
ブラック内装のフロントコンソールトレイが同色になり、プリウスの強すぎるコントラストが解消された。
しかし大量に売るのは難しい。プリウスPHVの月販目標は2500台だが、需要が落ち着く900〜1500台になるだろう。
プリウスPHVの販売が期待されるほど伸びない理由は、プリウスとの価格差と、走行コストにある。
プリウスも燃費が優れているから、プリウスとプリウスPHVの価格差(装備の違いを補正すると実質72万円/20万円補助金額を差し引いて52万円)を走行コストの差額で取り戻すには、プリウスPHVがガソリンを使わずに充電された電気だけで走っても、約27万㎞の走行を要する(電気代は従量電灯Bで計算)。
ガソリンを使って走れば、実質価格差を取り戻せる距離はさらに延びる。
エコロジーは損得勘定だけでは語れず、現行プリウスPHVは先代型に比べると付加価値を高めたが、好調に売るにはもう少し価格差を詰める必要がある。
駆動用電池の容量を増して、航続可能距離をさらに延ばす方法もあるが、価格差が今以上に開くから現実的ではない。プリウスPHVは同じ車名を使うためにプリウスと必ず比較され、それが割高感を強めてしまう。
また輸入車にプラグインハイブリッドが増えたことにも注目したい。今は価格が圧倒的に高くプリウスや同PHVの脅威にならないが、今後は割安な車種が登場する。
また輸入車にはクリーンディーゼルターボが多く、日本ではCEVに含まれて燃費数値に関係なくエコカー減税が免税になるから売りやすい。
そこで輸入ディーゼル車は戦略的に価格を抑え、ガソリン車と比べた時の価格上昇は20万~30万円だ。
ディーゼルは実用回転域の駆動力が高く、軽油価格の安さもあって燃料代がハイブリッドに近い。
ボルボの販売店では「プリウスからV40のD4に乗り替えるお客様が多い」という。V40とプリウスでは販売台数の競争はあり得ないが、今後はVWゴルフにもディーゼルが加わる。
プラグインハイブリッドの割安感も強まると、輸入車に乗り替えるユーザーが増えそうだ。
プリウスは今でも販売上位に入り、軽自動車と5ナンバー車が売れ筋になるなかで、数少ない3ナンバー車になる。
見方を変えると先代型が売れすぎで、今の台数が妥当かも知れないが、プリウスは常に販売1位であってほしい。
プリウスが数多く売れると排出ガスや二酸化炭素の排出抑制に繋がり、低燃費車の指標として、ほかの車種の燃費向上を促進する効果も期待できるからだ。
プリウスは日本車の主役で、日本のユーザーとクルマ作りに与える影響はきわめて大きい。海外ではなく日本のために頑張ってほしい。
