スズキのスポーツツアラーGSX-S1000Fが新たに「GSX-S1000GT」を名乗り、2月から国内で発売を開始した。ここでは開発者への取材を基に、新型モデルの詳細を解説したい。
ツアラー性能を大幅に強化し、クルコンなどの専用装備を与えたほか、同社初のスマホ連携機能も獲得している。さらにライバルのNinja1000SXとも比較してみた!
文/沼尾宏明、写真/スズキ二輪
【画像ギャラリー】新型KATANAもGTと共通のモデルチェンジを実施!(21枚)画像ギャラリー2022スズキ唯一のブランニューは旅適性を熟成
スズキ初の「GT」(グランドツアラー)を襲名した「GSX-S1000GT」が2月17日、ついに国内で発売開始された。海外で先行発表され、スズキのバイクでは2022年モデル唯一のブランニューとしても注目を集めていたモデルだ。
従来型にあたるGSX-S1000Fは、ネイキッド版のGSX-S1000とともに2015年デビュー。このシリーズは、名機と誉れ高いスーパースポーツ、2005~2008年型GSX-R1000(K5~K8)の水冷直4エンジンをベースに、アップハンドルなど公道向けのキャラクターを与えた。
GSX-S1000は一足先に2021年型でモデルチェンジし、主に電脳や吸排気系、外観をアップデート。従来型から2ps増の150psを発生しながら令和2年排ガス規制をクリアした心臓部や、高剛性アルミツインスパーフレームといった基本構成は現行GSX-S1000を引き継ぎながら、フルカウルツアラーに仕上げたのがGTだ。
従来のGSX-S1000Fはスーパースポーツ的な性格が際立ち、積載性やタンデムの快適性を重視した設計ではなかったが、今回のGTではキャラを一新。俊敏さを持ちながら、ロングツーリングを考慮した走りと装備を実現し、新感覚グランドツアラーの名に相応しい仕上がりとなっている。
新トレンドのデザインと空力特性を両立
「ネイキッドのGSX-Sにカウルをつけただけでは?」と思う人がいるかもしれないが、とんでもない。数々の専用装備を奢り、スズキらしい入念な造り込みで「別物」と思える乗り味を狙っているのだ。
まずデザインと空力性能を両立したスタイルが光る。デザインコンセプトは「A GT Tour de Force」。現行GSX-S1000やVストローム250などを担当した社内デザイナーによるもので、スズキの新しい潮流を感じさせる。
特に顔は今までのスズキらしからぬクール系だ。GSX-S1000との血統を思わせる異型六角プロジェクターLEDを左右に配置。これにV字型ポジションと、空気を切り裂く戦闘機の先端形状をイメージしたノーズを組み合わせ、印象的なイメージを演出している。
エアロダイナミクスにも徹底してこだわる。カウルは、車体全体を一つのシェルで覆うのではなく、各ウインドプロテクションの要素を細分化し、余分な箇所を削ぎ落とすことで、デザインとエアロダイミクスを両立した。
まずスクリーンは左右端を内側に折り込むことで、頭部と肩に当たる風を軽減。カウルサイドのウイングは膝への走行風を逃し、ミラーは手に当たる風を和らげる形状とした。さらにアンダーブラケット下部に巻き込み風を防ぎ、ハンドリングの安定性を高める整流板を新設している。
これらは全て、解析と風洞実験、実走行を重ね、地道に造り上げた産物だ。
執念のテストでキレ味とツアラーらしい安定感を両立
さらにロングツーリングでの快適性に徹底してこだわった。ライポジはGSX-Sより安楽な上に、より厚味を増したシート、振動を抑えるラバー付きステップを採用。GSX-Sと同様、フローティングマウントのハンドルと相まって、疲れにくい走りを実現している。
タンデムライダーの快適性も抜かりなく追求している。大型のタンデムグリップを採用したほか、新設計のシートレールでタンデムシートの位置を低くし、居住性の高いピリオンシートを採用した。
足まわりもツアラー適性を高めるため、執念のテストで造り込んだ。前後KYB製のサスはGSX-Sと共用ながら、セッティングはGT専用。タイヤは内部構造を最適化した専用設計のダンロップ製ロードスポーツ2を履く。
結果、ネイキッドのGSX-Sより全体の安定性や吸収性がアップ。低速域での乗り心地はもちろん、ツアラーとしてのしなやかさとスタビリティをあらゆる場面で発揮するという。
「当初は無理難題に思えましたが、スズキ竜洋テストコースで全開にしても破綻しない直進安定性を確保したまま、高い速度のコーナリングでもフラつきが少なく、思ったラインをトレースできるスポーツ性能を残せた。“足まわりはGSX-Sの使い回しでしょう”と思われる方にこそ、ぜひこの仕上がりを体感してほしい」と開発テストライダーも胸を張る。
そしてGSX-Sにはないクルーズコントロールもツーリングで大いに役立つ。2速30km以上から使用でき、解除やレジューム機能も簡単。使用時の加減速フィールにもこだわり、テストを重ねて穏やかでやさしい車体挙動を狙った。これも疲労を抑え、タンデムライダーにも配慮したものだ。
スズキ初のスマホ接続ほか実用装備のオンパレード
実用装備が充実するのもGTならでは。特筆すべきは、スズキ初のブルートゥースによるスマホ接続機能だ。新採用のフルカラーTFT液晶メーターにマップや音楽リスト、連絡先、カレンダーを表示し、ブルートゥースインカムを接続すれば電話の発信&応答も可能だ。
さらにGTではUSBソケット、ETC2.0車載器を追加。ツアラーのマストアイテムであるサイドケースが専用設計で登場した。タンデムライダーが乗降しやすいようフラットな形状とし、空力特性も考慮している。ケースは樹脂製で9万9000円。取り付けには別途サイドケースブラケット(1万3200円)、ロックセット(5390円)、ガーニッシュ(4400円)が必要だ。
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