■柔らかめだがステップワゴン史上最高の乗り味
今回の試乗は、市街地のような(あるいは教習所のような)テストコースで行われた。試乗車はe:HEV(ハイブリッド)を搭載するエアーとスパーダだ。
e:HEVでは、エンジンは主に発電を行い、モーターが駆動を担当する。性能の数値は先代型とほぼ同じだが、新型は熱効率を向上させた。そのメリットを生かして、エンジン回転数をある程度まで速度やアクセル操作に同期させている。
e:HEVのエンジンは発電用だから、回転数も発電効率だけを考えて決めれば合理的だが、ドライバーに違和感が生じてしまう。そこで敢えて、燃料消費量とのバランスを取りながら、エンジン回転を速度やドライバーのアクセル操作に連係させた。
動力性能を一般的なガソリンエンジンに置き換えると、排気量が2.5L前後の印象だ。モーター駆動だから、加速は滑らかでノイズも小さい。上質な走りを味わえる。
交差点を曲がる時にステアリングホイールを回し始めると、従来以上に正確に反応する。ステアリングの支持剛性が高まった印象だ。
16インチタイヤ装着車の最小回転半径は、先代型と同じ5.4mで、小回りの利きに不満はない。試乗コースにはUターンする場所もあったが、運転しやすかった。ボディの先端位置や車幅が分かりやすいことも、街中では有利な条件になる。
乗り心地は先代型よりも向上した。足まわりが先代型に比べて少し柔らかい設定に変わり、大きめのデコボコを通過した時でも、突き上げ感が生じにくい。
その代わりカーブを曲がる時には、ボディが大きめに傾くが、挙動の変化が穏やかに進むから安定性に不満は生じない。ドアの開口部を中心にボディ剛性も向上させたから、カーブを曲がる時は後輪が踏ん張る。
つまりボディの基本性能が向上して挙動変化が穏やかになり、走行安定性も高まったから、サスペンションを柔軟にセッティングして乗り心地を向上できた。
■「エアー」が目玉なのになぜかスパーダしか選べない安全・快適装備
以上のように新型ステップワゴンは、e:HEVの滑らかさや静粛性が向上して、乗り心地も快適だ。全般的に質が高まり、ドライバーも同乗者もリラックスできる。
この穏やかな特徴を素直に表現しているグレードがエアーだ。スパーダの内外装は、存在感や力強さをテーマにしているが、エアーは自然で親しみやすく、先に述べた新型ステップワゴンの走りや居住性に合っている。そうなるとグレードの本命もエアーになる。
ところがエアーの装備を見ると、スパーダに比べて見劣りする。e:HEV、1.5Lターボとも、スパーダには後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットインフォメーション、2列目シートに座る乗員の足を支えるオットマン、電動開閉式リヤゲートなどが標準装着されるのに、エアーではこれらをオプションでも装着できない。
その分だけエアーの価格はスパーダに比べて25万8500円安いが、大切な家族を乗せるミニバンでもあるから、安全装備のブラインドスポットインフォメーションは欲しい。ほかの装備も含めて、スパーダと同等の内容をオプションで装着可能にすべきだ。エアーが本命となれば、なおさらだろう。
このあたりを開発者に尋ねると「開発当初は、エアーとスパーダで、装備に差を付けることは考えていなかった。差が生じてもオットマン程度だった」と振り返る。しかしボディ後端の形状が異なるため、ブラインドスポットインフォメーションのメカニズムがエアーには収まらないこともあり、結局は装備に差が生じた。
スパーダの価格は、前述の通りエアーよりも約26万円高いが、スパーダでないと装着できない安全/快適装備が多く含まれる。そうなるとグレードはスパーダを選ぶことになり、ステップワゴンの親しみやすくリラックスできる雰囲気は、エアーに比べて希薄になってしまう。
いい換えれば、エアロ仕様を主力とする強敵のノア&ヴォクシーと、真っ向勝負を強いられる。従ってなるべく早いタイミングで、エアーにブラインドスポットインフォメーションなどをオプション設定して欲しい。
従来のステップワゴンは、スパーダを中心に発展してきたが、新型は違う。ステップワゴンだけでなく、フィットやヴェゼルを含めた今のホンダの世界観を明確に反映させたエアーを中心にすべきだ。
そうしないと、従来のステップワゴンのように車両の持ち味が曖昧になり、機能は優れているのに選ばれにくい商品になってしまう。ホンダの国内販売の将来も、ステップワゴンによって左右される。
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