セダンなど整理縮小で軽依存ならぬ「N-BOX依存」加速?
今回、販売車種を絞り込むことにより、ホンダのセダンはインサイトからクラリティまで、比較的大柄な車種のみとなる。ステーションワゴンは5ナンバーのシャトルのみだ。ほかは、軽自動車とコンパクトハッチバック、ミニバン、そしてSUVである。
2019年度の国内販売ベスト50に、ホンダの登録車は6台(フリード、フィット、ヴェゼル、ステップワゴン、シャトル、シビック)のみで、トヨタの22台と比べ大きな開きが生じている。
軽自動車販売では、N-BOXの圧倒的強さが目につくが、実は2019年度一年間の販売ベスト15のうち、ホンダ車は2台のみ(もう1台はN-WGN)で、スズキが5台、ダイハツは4台、そしてトヨタ、日産、三菱が1台ずつだ。
そのうちトヨタのピクシスはダイハツと同じ車種なので、ダイハツがスズキとともに5台ずつ上位に入っているといえなくもない。
つまり、軽自動車販売で圧倒的に見えるホンダだが、軽自動車全体的にはスズキやダイハツに追いつけていないといえるのではないか。
また、登録車のベスト50位に入る6台も比較的小型の車種であり、利益幅はそれほど大きくなさそうに思える。そうしたなかで登録車の絞り込みがどのように影響してくるのだろう。
「買って喜び、売って喜び、作って喜び」 本田宗一郎氏の名言が示す哲学
今回の絞り込みで削られた車種で気掛かりなのは、いずれも短期間で販売不振から止めてしまうことだ。もちろん、自動車メーカーとして採算が合わない車種を削ることは、経営の健全化に必要なことといえる。しかし、消費者の視点で考えれば、また別の見方がある。
本田宗一郎ほかの役員は、創業以来、数多くの言葉を残している。
宗一郎のものづくりの根幹にあるのは「世のため人のため」であり、戦後、自転車にエンジンを取り付けることで移動を楽にしたいと考えたのが原点になる。長寿な販売を続けるスーパーカブも、配達する人が片手に荷物を持ちながら運転できる仕組みを考えた2輪車だ。
そうした本田宗一郎のものづくりの姿勢をもっとも表す言葉に、「買って喜び、売って喜び、作って喜び」という、3つの喜びがある。消費者と販売店とメーカーという立場で、それぞれが喜べる商品をつくろうという意味だ。
この言葉は当初、「作って喜び、売って喜び、買って喜び」と順序が違っていた。それを副社長の藤沢武夫があるとき間違いに気づいたと、順序を変えたのである。
藤沢は、「お客様の喜びがあってはじめて、売る喜びがあるはずで、その二つの喜びの報酬として作る喜びがある」と、位置付けたのである。そして今日では、作る喜びは、創る喜びと文字を変えている。
この逸話からすれば、新車投入をしながら、モデルチェンジすることもなく短期間で止めてしまったり、市場動向によって売ったり売らなかったりをすることは、3つの喜びに照らし合わせてみれば、メーカーの都合を第一とした行為であろう。
ファンを大切にした商品展開こそ「世界のHonda」の原点
ホンダは、ホンダファンともいえる優良顧客を大切にし、販売店への配慮も常に欠かさず、世界のホンダになったメーカーである。
2輪・4輪・汎用と、エンジンを中心としたさまざまな事業分野を持つのもホンダの特徴であり、ホンダの芝刈り機を使い、スーパーカブに乗り、シビックを使うような優良顧客が、永年にわたりホンダを支えてきた。
また、マン島TTレースへの参戦や、F1への参戦などを通じ、ホンダのモータースポーツ活動に心を熱くした人たちが、ホンダの商品を買い求めてきたのではないか。
ところが、買ったクルマがモデルチェンジせずなくなってしまったり、市場動向によって売ったり売られなかったりしたら、買い替えをしようとしたとき次のホンダ車がないことになる。
やむをえず、ほかのメーカーとつながりができれば、二度とホンダに戻ってこないかもしれない。それは、ホンダがこれまで大切にしてきた優良顧客を失うことになり、当然、販売台数は落ち込むだろう。
どのメーカーや企業も、創業者の思いは尊い。ただ、事業の仕方は時代の要請によって変化することもあるだろう。
2代目の社長であった久米是志は「先達の考え方の中で納得できるものをみんなで分析し、新しい思想、知恵、夢をみんなの努力のなかから創り出していくことを期待している」と、述べている。
しかし、事業を継続するための志は、時代によって変わるものではなく、人間中心であり、世のため人のためでなければ、100年の計も成り立たない。
事は、単に、グレイス、ジェイド、シビックセダンの生産中止に止まらず、ホンダの将来をどうするのか、その一点に掛かっている。消費者にとって最良となる目標を提示できないホンダには、優良顧客でさえ辛抱しきれなくなるに違いない。
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