現代のクルマは軽トラックですら快適装備はエアコン、オーディオ、パワーウィンドウ、安全装備も横滑り防止装置に自動ブレーキが着くことは珍しくなく、かつての高級車並みのフル装備である。
しかし世の中には快適装備が付いていない以前に、「普通付いている」というボディパーツすら着いていないクルマというのもあり、当記事ではそんな「あるべきものがないクルマ」をピックアップして見ていく。
文:永田恵一/写真:ATLANTIC MOTORS、SMART、CATERHAM、RENAULT、HONDA、DAIHATSU、MITSUBISHI、SUZUKI、MCLAREN、FERRARI、LAMBORGHINI、PORSCHE、TATA
【画像ギャラリー】21世紀のロードカーで最も常識破りのダラーラストラダーレの破天荒ぶりをじっくりと堪能する!!
フロントガラス、ドア、ルーフがない最大の異端児のダラーラ
その代表が最近日本導入が開始され、まさに「ナンバー付のレーシングカー」という言葉が相応しい、イタリアのレーシングカーコンストラクターであるダラーラ社のストラダーレだ。
ダラーラストラダーレは標準状態から好みによってパーツを加えていくという注文生産車なのだが、標準状態ではフロントガラス、ドア、ルーフがないというフォーミュラカーのようなクルマである。
幸いオプションでフロントガラス(レザー張りのダッシュボードなど含め221万9000円)、ドアとルーフはガルウイングドア+キャノピー(104万3000円)という形で用意される。
しかしダラーラストラダーレは乗り降りの際にフォーミュラカーのサイドポンツーンのような張り出しを跨ぐ必要があるため、ガルウイングドア付きでもシートには乗り降りの際に土足を一時置くスペースがある。
破天荒ぶりではスマートも同じ
ジャンルはまったく変わって、ベンツの小型車ブランドであるスマートにおいて主にシティコミューターとしての使用を想定したスマートフォーツーの初代モデルに世界限定2000台で発売されたクロスブレードもあるべきものがないクルマだ。
ダラーラストラダーレ同様にフロントガラス、ドア、ルーフがなかった。
ドアに関してはガルウイングのように開くセーフティバーが主に車外放出を防ぐ目的で装備され、車内は雨を防ぐものがないのに対応しシートは撥水素材、フロアは樹脂製となっていた。
まあ気候のいいときだけ海岸線などを流すなどの使い方をするなら面白いクルマではある。
元祖キットカーのケータハムは今でも異彩を放つ
「ドア、ルーフの2つがないクルマ」というなら、ダラーラストラダーレより見方によっては「ナンバー付のレーシングカー」のキャラクターが強いケーターハムセブンが代表だ。
ケーターハムセブンはしばらく前までフロントガラスもオプションだったのだが、「さすがに」ということなのかフロントガラスは標準装備となったものの、ビニール製となるドアと幌≒ルーフはオプションだ(ビニール製のものをドアと呼ぶのもケーターハムセブンの凄さだ)。
ちなみにケーターハムセブンは乗り降りの際にリアのロールバーを掴むのはOKだが、フロントガラスはそのようにできていないため持つと容易に破損するので、乗るチャンスがあった際には注意したい。
日本の古いクルマたちに敬礼
そのほか「フロントガラスとルーフの2つがないクルマ」にはダラーラストラダーレに近いキャラクターを持つルノースポールスピダーの標準状態、ドアがないクルマとしてはダイハツフェローバギーやホンダバモスの初代モデル(バモスの初代モデルにはガードパイプは付く)が挙げられる。
なおフロントガラスのない四輪車に乗る際に着用義務があるドライビングギアはないが、走行中に虫や飛び石などが顔に当たって最悪失明ということがない話ではないので、ヘルメットやゴーグルだけは義務がなくても着用したい。
リアドアが左側しかない斬新さも短命に
これは6代目ミニカのレタスや2代目までのワゴンR(それぞれ左右にリアドアがある仕様が主力)という例がある。
リアドアが左側のみというのは乗員が車道側から乗降しないので安全、コストが下がる可能性があるというメリットはあったが、ワゴンRの初代モデルは左側のみのリアドア以前のコンセプトの新しさで大ヒットしたものの、それほどパッとせずに姿を消した。
助手席側のドアミラーがない
これは「10万ルピーカー(当時の日本円で約28万円)」として話題になった、インドのタタモータースから2008年に登場したナノのベーシックモデルが該当。
助手席側のドアミラーがないのは「運転席側は目視もできるから、ドアミラーをなしにすればコストが下がる」という理屈なのだろうが、超過密なインドの交通環境でドアミラーを使わず必ず目視をするというのも無理のある話に感じる。
それも事実だったようで2015年に登場したナノの2代目モデルには左右にドアミラーが付いたものの、ナノ自体は2018年に絶版となってしまった。
助手席がない?
マクラーレン初のロードカー、スーパーカーであるマクラーレンF1の運転席の隣には助手席がない。「では1人乗りなのか」というとそれどころではなく、運転席は中央、運転席の両隣に運転席より後方にセットしたシートがあり、ほぼ横後方に並ぶ3人乗りだった。
マクラーレンF1の運転席が中央の3人乗りレイアウトには2人乗りではなく3人乗りとなることのほかに、1人乗りの際の重量バランスが適正化される、スーパーカーによくあるホイールハウスが大きいため特に右ハンドルだとペダルが左側に寄りがちという点を解消できるというメリットもあった。
しかし左右どちらかに寄せる際の寄せやすさは同等な代わりに、どちらかに寄せやすいということもないのも事実だった。
ウインカーやライトのレバーがない
ライトやウインカーのスイッチがダッシュボードに独立していることはあるが、ウインカーはステアリングコラムのレバーとなっており、一目瞭然で使える。
しかし現行フェラーリの一部やランボルギーニウラカンはライトやウインカーもステアリングの中となっており、意識なく初めて乗るとウインカーの出し方すらわからないことも多々ある。
フェラーリやランボルギーニのライトやウインカーがステアリングにあるのはレーシングカーのイメージもあり、これはこれでスーパーカーらしい演出だ。
シートの前後スライド機能がない
これはまたまた登場のダラーラストラダーレだ。
ダラーラストラダーレはガソリンやオイルを除いた乾燥重量で855kg、ガソリンやオイルを含んでも1トン以下という軽さだけに、クルマ全体で見た際に結構な重量物となるドライバーの位置は変えたくない。
そのためドライビングポジションは可動するペダルで合せるというものになっており、この点からもダラーラストラダーレが生粋のレーシングカーであることが強く感じられる。
室内側のドアハンドルがない
車内側からのドアを開ける際は、通常引くタイプか引き上げるタイプのドアハンドルを使う。
しかしフェラーリF40やRSと付くポルシェ911というレーシングカーの領域といえるスーパーカー、スポーツカーになると車内からのドアを開け方は前者がドアの中のワイヤー、後者だと肩掛け鞄のようなベルトを引いて行う。
これは軽量化のためなのだが、こういったスパルタンさもレーシングカー的な雰囲気の演出には大きく貢献している。