■人気のSUVにみるトヨタの「惜しまない戦略」
トヨタに話を戻すと、近年ではC-HR、RAV4、ライズ、直近のハリアーという具合にSUVを充実させた。SUVは売れ筋のカテゴリーだから、コロナ禍による販売の落ち込みを抑える効果も充分に発揮されている。
しかも、ライズは今では貴重な5ナンバーサイズのSUVで、価格も割安だ。C-HRも全長が4400mm以下に収まり、外観を個性的に仕上げた。RAV4は大柄だが、外観は野性的なオフロードモデル風で、SUVの原点回帰を求めるユーザーの間で人気を得た。
各車ともサイズだけでなく、性格にも幅を持たせ、重複や競争を避けることでSUV全体の売れ行きを伸ばしている。これもコロナ禍におけるトヨタの落ち込みが小さかった理由だ。
ほかのメーカーは、SUVをここまで綿密には揃えていない。ホンダではコンパクトSUVのヴェゼルは堅調だが、CR-Vは内外装の質に不満があり、その割に価格が高く売れ行きも落ち込む。2020年5月の登録台数は300台以下だ。
日産はジュークの生産が2019年に終わり、キックスが登場するまで、SUVはエクストレイルのみだった。
マツダはOEM車を除く8車種のうち、4車種をSUVが占めるものの、CX-3とCX-30はサイズが重複する。CX-30はCX-5に比べるとサイズの割に価格が高い。外観のイメージは全車が似通っており、走行性能と質感は優れていても、SUVを4車種用意する割に売れ行きを伸ばせない。
三菱もアウトランダーとエクリプスクロスの性格に重複が見られる。RVRはコンパクトだが設計が古い。プラットフォームは、ホイールベースを含めて3車すべて共通だから、機能も重なりやすい。
このように各社ともSUVに力を入れて、商品力も相応に高いが、トヨタに比べると車種ラインナップの綿密さが乏しい。同じメーカーのSUV同士が競争して、販売促進を妨げている。
■他社への影響力絶大だからこそ「日本のユーザーに寄り添ったトヨタ」を
そして、トヨタが最も大きな効果を発揮したのは販売力の強さだ。2020年1~7月の国内シェアは、軽自動車を含めて31%、小型/普通車に限れば48%に達した。今の新車販売では、全体需要の80~90%が乗り替えに基づく。
そのために綿密なサービスを行って堅調な売れ行きを確保していれば、顧客は愛車が相応に古くなると定期的に新車を購入する。この高い信頼と安定した乗り替え需要は、コロナ禍のような受難にも強い対抗力を発揮する。
ただし今のトヨタは、さまざまなリストラを目的に、4つの系列を残しながら全店併売へ移行した。
アルファードとヴェルファイアは基本的に同じクルマだが、全店でトヨタ車を自由に選べるようになり、2020年7月の売れ行きには7倍の格差が生じている。
数年後のフルモデルチェンジでは、好調に売れるアルファードが残ってヴェルファイアは廃止されるだろう。トヨタの国内店舗数も、2010年には5000店舗に達したが、2019年は約4600店舗まで減っている。国内ではトヨタの縮小が始まった。
トヨタは登録台数が多く、販売網も強力だから、日本のユーザーの利益を直接的左右する。ほかのメーカーも、トヨタを見て動向を決めることが多く、良くも悪くもトヨタの影響力は絶大だ。常に日本のユーザーに寄り沿うトヨタであって欲しい。
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