残価設定ローンの逆転現象
ヤリスクロスが身内のトヨタ車に与える影響も大きい。今ではトヨタの全店(4600店舗)で全車を購入できるから、人気車は売れ行きを大幅に伸ばす。その代わり顧客を奪われる車種も生じる。
全店が全車を売ることで、系列という垣根が実質的に取り去られ、トヨタ車同士、トヨタ系販売会社同士の競争が激しくなっている。
そうなるとトヨタ車では、ヤリスの売れ行きが影響を受ける。ヤリスとヤリスクロスの価格差は、装備の違いを補正すると実質18万円前後だから、予算に余裕があると、外観に存在感があって荷室も少し広いヤリスクロスを選ぶだろう。
特に今は残価設定ローンが普及した。5年間の均等払いにした場合、ノーマルエンジンを搭載するヤリスクロス2WD・Zの月々の返済額は3万2500円、ヤリスはアルミホイールを装着して条件を合わせると3万3000円だ。
残価設定ローンでは、ヤリスの月々の返済額がヤリスクロスを上回ってしまう。
こうなる理由は5年後の残価(残存価値)だ。ヤリスクロスは新車価格の37%となる81万7700円と高額だから、この金額を除いた返済額を安くできた。
対するヤリスの5年後の残価は、新車価格の25%と平均的だから、割賦元金が安くても月々の返済額は増えてしまう。
残価設定ローンを利用する場合、リセールバリュー(中古車として再販売する時の価値)の高い車種が有利になるため、残価設定ローンの返済額が価格の順列と逆転する現象も起こり得る。
そして販売会社にとって、新車価格が高く、なおかつ中古車になっても高値で流通する商品は魅力的だ。
そのために販売店では、「ヤリスとヤリスクロスで迷われるお客様には、リセールバリューの高いクロスのほうが有利だと説明している」という。そうなるとヤリスクロスの登場で、今後ヤリスの売れ行きが影響を受ける可能性は高い。
好調なライズも影響を避けることはできない
同様のことは、ほかのトヨタのSUVにも当てはまる。
今まで価格が200万円台の前半で買えるSUVはライズのみだったが、今はヤリスクロスも加わった。ライズは5ナンバー車で、悪路向けのSUVに似た雰囲気も備えるから商品の性格はヤリスクロスと異なるが、それでも影響を受けるのは避けられない。
C-HRは都会的なSUVだから、雰囲気がヤリスクロスに似ている。従来ならC-HRを選んだユーザーが、今では割安なヤリスクロスを購入することも考えられる。
この数年間の国内販売状況を見ると、1年間に500万~520万台の横這いが続く。そうなるとヤリスクロスが登場して好調に売れれば、トヨタ車、他メーカー車を問わず、いろいろな車種が影響を受ける。
そこで販売下降を抑えるために、ほかの車種が改良を行ったり、割安な特別仕様車を追加すれば、ユーザーのメリットも高まる。
ヤリスクロスは、コンパクトSUVの世界にいい刺激を与えてくれるだろう。
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