■光るヤリスクロス価格設定の妙
価格設定も注目される。ヤリスクロス「1.5Z」(221万円)は、ヤリス「1.5Z」(192万6000円/価格はいずれも2WD)に比べて28万4000円高いが、18インチアルミホイールなどを標準装着した。装備の違いも考慮すると、ヤリスクロスの価格は、ヤリスに比べて実質18万円前後の上乗せに収まる。
この価格差で外観が大幅に変わってSUVに変更され、後席や荷室も広がるなら、ヤリスクロスが割安と考えるユーザーも多い。日産 キックスの価格は、同等のメカニズムや装備を採用したノートに比べて約36万円上まわる。ヤリスクロスは、機能や装備と価格のバランスを巧みに設定した。
このほかヤリスクロスの売れ行きには、C-HRが発売から約4年を経過して、設計の古さを感じることも影響しているだろう。C-HRは2020年9月に3681台を登録して、相応に健闘しているが、2017年9月には7126台に達していた。C-HRのユーザーがヤリスクロスに流れている事情もある。
■フィットクロスターの魅力と売れ行き伸び悩む訳
その点でフィットクロスターは、フィットに属するグレードだから、ヤリスクロスに比べて特別感が乏しい。また、ヤリスクロスに相当するコンパクトSUVをホンダ車で買いたいユーザーは、フィットとは別設計のヴェゼルを選ぶことも影響した。
ヴェゼルは発売から約7年を経過したが、2020年9月の登録台数は2894台だ。フィットクロスターの1300~1400台に比べると、今でも多く売れている。
ヴェゼルはヤリスクロス、あるいはフィットと比べても後席と荷室が広いので、実用性を重視するユーザーの間では人気が高い。言い換えればヴェゼルのラインナップにより、フィットクロスターが売れ行きを伸ばせない事情もある。
このように見てくると、ヤリスクロスとフィットクロスターの間に4~5倍の販売格差が生じるのも理解できるが、両車を乗り比べるとフィットクロスターのメリットも実感できる。
それは乗り心地と走行安定性のバランスだ。フィットクロスターが装着する16インチタイヤは185/60R16だから、フィットのほかのグレードが装着する185/55R16に比べて空気充填量が多い。タイヤの指定空気圧も異なり、クロスターのハイブリッドでは、前輪を220kPa、後輪は210kPaに抑えた。
ほかのグレードは、転がり抵抗を下げる目的もあって230kPa・220kPa、あるいは240kPa・230kPaだから、低速域で路上の細かなデコボコを伝えやすい。クロスターはそこを快適に仕上げた。
一方、ヤリスクロスは、指定空気圧は高くないが、足まわりの設定によって乗り心地は硬めだ。前述の通り、後席と荷室のスペースもフィットクロスターに比べて狭い。
■人気に差はついても両車の魅力は拮抗
価格も異なり、フィットクロスターのノーマルエンジン車は193万8200円、e:HEV(ハイブリッド)は228万8000円だ。ヤリスクロス「Z」は、割安とはいえノーマルエンジンが221万円、ハイブリッドは258万4000円に達する。
ヤリスクロスはSUVらしい外観と外装パーツによって、一種のプレミアム感覚を漂わせるが、価格はフィットクロスターが27~30万円安い。
従って登録台数に4~5倍の格差が生じても、両車の魅力は拮抗している。ヤリスクロスとフィットクロスターで迷うユーザーは少ないと思うが、フィットを選ぶ時には、ホームだけでなくクロスターも試乗して判断したい。特に乗り心地の違いは、実際に乗らないと分からない。
【画像ギャラリー】明暗を分けた登録台数! コンパクトSUVの競合車 トヨタ ヤリスクロスとホンダ フィットクロスターを見る
コメント
コメントの使い方