アクティが2021年4月に生産終了! 軽トラ・カルチャーの興廃! 農道のフェラーリが生産を終えた裏事情

ホンダアクティの生産終了を惜しむ声がいまだに多い

アクティトラックの荷台スペース
アクティトラックの荷台スペース

 2020年度におけるアクティトラックの売れ行きにも注目したい。2019年は前述の1万5268台に留まったが、2020年度は2万2191台に増えた。

 キャリイやハイゼットトラックには及ばないが、2019年の1.5倍に達する。2019年の末に生産終了が伝えられると、注文を入れるユーザーが相次いだ。

 つまりアクティトラックを惜しむユーザーは少なくない。この点もホンダの販売店に尋ねた。「長年にわたりアクティトラックを使っていただいたお客様は、生産終了が伝えられると注文を入れてくださった。それでも後継車種は開発されないため、アクティトラックのお客様は、やがてホンダを離れていく」。

 この損失は大きい。アクティトラックは軽自動車でも商用車だから、複数の車両を使う法人もある。販売店は大口の顧客を失う心配が生じる。

 またアクティトラックと併せて、営業車としてコンパクトカーのフィットなどを所有する法人もある。仮にアクティトラックのユーザーがキャリイに乗り替えて、スズキの販売店がその法人の営業に力を入れると、それまで使ってきたフィットがスズキスイフトに変更される可能性もある。

 このような顧客流出は、販売店やメーカーの損失に繋がるから、スバル、三菱、マツダなどは、軽自動車の開発と生産から撤退してもダイハツやスズキ製のOEM車を扱う。OEM車では、車両販売で得られる利益はきわめて少ないが、顧客流出の防止、車検や保険などの継続でメリットを得られる。

 ホンダの販売店では「アクティトラックが生産を終えるなら、スズキやダイハツのOEM車でも良いから導入してくれると嬉しい。

 しかしホンダの方針を考えると無理だろう」という。個性的な商品を開発するのはホンダの強みだが、その代わり今は、他社の商品を扱うことは考えにくい。このあたりにもホンダの難しさがある。

ミカン農家から高く評価されていたアクティの性能

エンジンを前極の車軸の間に置くホンダ独自のMR(ミドシップ・リア駆動方式)を採用。空荷時でも駆動輪である後輪にしっかり荷重がかかるので安定感のある走りと、エンジンと居住空間が離れているため室内の静粛性にも貢献
エンジンを前極の車軸の間に置くホンダ独自のMR(ミドシップ・リア駆動方式)を採用。空荷時でも駆動輪である後輪にしっかり荷重がかかるので安定感のある走りと、エンジンと居住空間が離れているため室内の静粛性にも貢献

 アクティトラックは、ユーザーから高く評価されていた。その一番の理由は、エンジンをボディの後部/荷台の下側に搭載したことだ。軽トラックは後輪駆動だから、重いエンジンを後部に搭載すると、駆動力の伝達効率が向上する。2WDでも悪路で空転を生じにくい。

 また前後輪が負担する荷重のバランスも良くなる。車検証の記載値によると、アクティトラックの前後重量配分は、前輪が58%で後輪は42%だ。

 エンジンを前席の下に搭載する一般的な方式のキャリイは、61:39%だから、前輪側が重い。その点でアクティトラックは、重い荷物を積んでいない時でも、前後輪の重量バランスが整っている。

 サスペンションは、前輪はほかの軽トラックと同様のストラットによる独立式だが、後輪は異なる。アクティトラックのリアサスペンションは、2WD、4WDともにド・ディオンアクスルだ。

最低地上高は185mm。あぜ道や田畑との段差や凸凹道でも余裕のクリアランスを確保
最低地上高は185mm。あぜ道や田畑との段差や凸凹道でも余裕のクリアランスを確保
ぬかるみや雪道、砂地などで車輪が空転して動けなくなったとき、リアデフロックスイッチをオンにすると駆動力の左右を後輪に等しく伝え、脱出しやすくなる
ぬかるみや雪道、砂地などで車輪が空転して動けなくなったとき、リアデフロックスイッチをオンにすると駆動力の左右を後輪に等しく伝え、脱出しやすくなる

 ド・ディオンアクスルは、キャリイやハイゼットカーゴの一般的な車軸式に比べると、リーフスプリングを使っても足まわりが路面に合わせて柔軟に追従する。スバルがサンバーを自社開発した時代の4輪独立式サスペンションが違うが、粗さを抑えた快適な乗り心地を実現させていた。

 例えばウネリのある路面を通過した時、アクティトラックは、ほかの軽トラックに比べてボディの上下動が比較的早く収まる。突き上げ感も小さく、快適性に特徴があった。ホンダはN-BOX、フィット、ヴェゼルなど、前輪駆動をベースにした4WDモデルの後輪にも、ド・ディオンアクスルを使うことが多い。

 軽トラックは果樹園などで活発に利用され、傷つきやすい果物を積んで、デコボコの激しい未舗装の農道を走る。商品を守るために優れた乗り心地が求められ、足まわりを柔軟に伸縮させるアクティトラックが喜ばれた。

 先に述べた4輪独立懸架を採用した時代のスバルサンバーも同様だ。スバルが軽自動車の開発と生産から撤退して、ダイハツ製のOEM車に切り替わる時、販売店では「荷物に優しい乗り心地と優れた悪路走破力により、従来型サンバーの存続を希望するお客様の声が多く寄せられた」と述べている。

 それでもサンバーを含めて、スバルが軽自動車市場から撤退したのは、開発資源を水平対向エンジンの小型/普通車に集中させるためだった。スバルの開発者は「軽自動車市場からの撤退は辛い選択で、お客様に迷惑を掛けたが、商品開発はスムーズになって経営的なメリットも得られた」とコメントしている。

2012年3月、スバルはサンバーバン/トラックの生産を終了し、54年の軽生産の歴史に幕を閉じた。写真は2011年に発売されたサンバー発売50周年記念特別仕様車「WRブルー リミテッド」のスバル サンバートラック
2012年3月、スバルはサンバーバン/トラックの生産を終了し、54年の軽生産の歴史に幕を閉じた。写真は2011年に発売されたサンバー発売50周年記念特別仕様車「WRブルー リミテッド」のスバル サンバートラック

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