農業就業人口の減少をモロに受けた格好
軽自動車は前述の通り薄利多売だ。しかも基本的に日本独自の規格で、海外向けの車種と完全に共通化するのは難しい。小型/普通車と軽自動車を両方とも手掛けるのは負担が大きく、スバルは軽自動車の開発や製造をやめた。
逆にホンダや日産は、両方の開発と生産を行う。ホンダはアクティトラックの売れ行きを下げながらも、2020年度の軽自動車届け出台数は、国内で売られたホンダ車の53%に達した。日産も国内販売の43%を軽自動車が占める。
軽自動車は薄利多売で、なおかつ今の売れ筋カテゴリーだから、軽自動車を扱うとなれば販売比率が必然的に増えてしまう。いい換えれば車両販売では儲からない割に、小型/普通車の需要を吸収するから、メーカーは軽自動車の車種数をあまり増やしたくない。アクティトラックを廃止した背景には、このような軽自動車の事情も絡む。
今後はS660の生産も2022年3月に終了するから(受注は2021年3月に締め切った)、ホンダの軽自動車は、プラットフォームなどを共通化したNシリーズのみに統合される。軽自動車に向けた投資をスリム化するわけだ。
アクティトラックを廃止した背景には、軽トラック市場の縮小もある。1990年には、軽トラックの届け出総数は43万2918台であった。それが2000年には27万9630台に下がり、2010年は21万9620台、2020年は17万5150台まで減っている。
つまり2020年の軽トラックの届け出台数は、1990年の40%と低迷する。過去30年間で、軽トラックは60%の需要を失った。
この背景にあるのは、農業就業人口の大幅な減少だ。1990年の農業就業人口は565万人だったが、2000年には389万人に減り、2010年は261万人、2020年は145万人となった。今の農業就業人口は30年前の26%で、74%減少している。前述の通り軽トラックも30年間で60%減ったから、農業就業人口の減少に伴って軽トラックの需要も下がった。
これは軽トラックにとって切実な課題で、売れ行きを保つには、農業を活性化させねばならない。この事情も視野に入れ、ダイハツは、農林水産省による「農業女子プロジェクト」に参画した。農業を活性化させるため、農業を手掛ける女性に焦点を合わせたプロジェクトだ。
その一環として、ハイゼットトラックにはオレンジ色やローズの外装色を選べるカラーパック、メッキグリルなどの装飾を含んだスタイリッシュパック、スーパーUV&IRカットガラスなどをセットにしたビューティパック等の女性向けアイテムを充実させている。
軽トラックは切実なニーズに支えられる商品だから、時にはクルマのメーカーが、商品開発の面から顧客の産業を活性化する支援も行う。
そこに仕事のツールに徹した軽トラックの醍醐味がある。2020年度におけるハイゼットトラックの生産台数は、前述のOEM車を加えると8万6908台だが、この売れ行きを達成した背景にはさまざまな苦労がある。
そこまで考えると、サンバーに続くアクティトラックの生産終了も理解できるが、優れた特徴を備える軽トラックだったから寂しい。アクティトラックはN360などと同様、ホンダの歴史に残る名車に違いない。
そしていつの日か、再び戻ってきてほしい。電動化という壁があるだろうが、軽トラックは日本の物流を支える一番身近で、最も立派なクルマであるからだ。
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